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刊行書籍情報

人工頭脳時代

コンピュータ関連

人工頭脳時代

頭脳労働の革命が始まっている

菊池 誠 プロフィール

1963年9月20日発行。記念すべきブルーバックスの第1冊目(現在は品切れ)。
人工頭脳(=電子計算機)が社会に与える影響を解説した一冊。その効果は使う人間次第であるという主張は現代の社会にも通じる。
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日本では、外国の進歩した技術が持ちこまれると、極めて安直にそれが受け入れられてきた。それがモダンとされてきた。そして、それを使っているうちに、われわれが始めからモダンであったような錯覚に、強く支配されて来る。実際、洋服を着てパンを食べる習慣がとり入れられてからというもの、物の考え方や、生活の仕方の面で、不合理なものが少しずつ追いやられたようにも思う。
原子力が日本でクローズアップされた頃、ある日、ラジオでひとりの原子科学者のインタビューが放送された。
「原子力の時代というと、ずいぶんいろいろな夢が実現されると思いますが?」
「ええまあ、やりよう如何でしょうな」
「例えばどんなことが起るのでしょうか」
「さあ、やり方の問題ですからね」
「日本人の生活も、大分変るでしょうね」
「ですから、それはやりようです」
アナウンサーは、話のわからぬ学者と思ったかも知れない。しかし、この答えが本当だろう。
日本にも、電子計算機が入ってきた。そして、いろいろな形で近代化の前駆現象がひき起されてきたが、果して、今の日本の社会は、それについて行ける素質を持っているだろうか。わたしは、自分の研究生活をふり返ってみながら、いつもそういった疑問を消せないでいる。ここでも「やり方如何だ」という答えがあてはまるのだろう。
夏目漱石だったと思うが、電話が便利だと聞いてそれを備えたら、ジリジリなってやかましいので、受話器をはずすよう家人に命じたそうである。
また、ソ連を訪問したある代議士が、養鶏所でニワトリが、時間が来ると一斉に餌を食べさせられ、夜となく昼となく卵を生んでいるのを見て、
「わたしは、あれでニワトリは幸福だろうかと、つくづく考えた」
という、感想を洩らしたとの話を聞いたことがある。
日本では、科学や技術よりも、こういった情緒の面が尊ばれる。ある場合には、科学をひにくることで精神が強調される。
そういったけじめのない世界に、電子計算機が進軍してきたら、一体どういうことになるのだろう。科学技術が進歩すればするほど、それは科学にたずさわる者だけの問題ではなくなってくる。
(「電子計算機をどう受け入れたらよいか─序にかえて」より)

定価270円(税別)

ISBN02551760112253

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