日本一の書評

2016年01月31日(日)

映画監督・塚本晋也さんが選ぶ人生最高の10冊
物語の中で描かれる「リアリティ」を見つめ続けて

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\"\"映画『野火』のwebサイトより
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時間をかけると迷うので、すぐに思い浮かんだ本にしました。大岡昇平の『野火』を最初に読んだのは高校生のときです。

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僕は風景描写を飛ばして読む癖があるんですが、肩越しにカメラが据えられているかのような切迫感があり、一字一句を追って読んだ記憶があります。

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肌が焼けるような南方の夕日の描写、澄み渡った自然の中で人間が異様な事態に陥っていく。戦争なんか嫌だと言っちゃいけない時代に、飢餓状態の兵隊が「こんなところに来たくなかった」と話すのを、こっそり聞く感覚がしたんです。

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昨夏に公開され、現在も『野火』の上映は続いていて、各地に出かけていっています。絶対映画にしたいと20代のときに思い、ライフワークのようになっていったのも強いモチベーションがあったからだと思います。

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次の『悪魔のように細心に! 天使のように大胆に!』は、黒澤明監督の映画づくりの真髄が詰まった本です。僕は中学生のときに8ミリ映画を撮りはじめたんですが、高校に入って友達から「黒澤を観ないとだめだよ」といわれ、銀座の並木座に行ってから、夢中で観るようになりました。

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この本には黒澤さんがドストエフスキーに影響された話や、スチール写真がふんだんで、しかもどのカットも無駄がない。見るたび引き込まれます。

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堀江謙一さんの『太平洋ひとりぼっち』は小型ヨットの単独横断記で、小学生の高学年の頃に読んで「冒険家になる」と決心し、中学になって船の設計図を描いたりしていました。

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2mくらいの小型船なのに船室付きだったのは「密室」への憧れだったんでしょうね。結局航海まではいかず、当時集めた道具は後の映画をつくる際に活用しました。

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冒険か、映画か。心をざわめかせながら映画を選択した。でも、冒険心が消えたわけではなく、40歳になって自転車で遠出しようと準備したんですよ。寸前にギックリ腰で中止。用意したゴアテックスなんかは次の映画の現場に使いました。

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探偵七つ道具は映画作りの原点

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宝物といえば江戸川乱歩の少年探偵団ですね。僕が大事に持っているのはポプラ社の15巻セット。1冊280円で、1ヵ月の小遣いが500円のときに貯めては買うのを繰り返していたものです。

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小学生ですから、まずトリックに仰天した。当時は探偵団ごっこに夢中になって、空き家を探索したり防空壕を探検したり、七つ道具を自分で作ったりもしました。どうしても無理だったのが、「手の中に入る縄梯子」でしたね(笑)。

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探偵手帳は市販品があったんですが、自分で作ることに意味があると思っていた。こうやって話していて気づいたんですが、ヨットとか自転車とかカメラ、僕が惹かれるのはどれも小型で、既製のものに頼らず自作しようとするこだわりは映画作りにつながっている。

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もう一点、乱歩作品で魅了されたのは怪しい官能性。少年が怪人に捕らえられ、密室に閉じ込められて、そこに蛇が解き放たれる。子供向けにしてはその場面の描写が異様にエロティックでした。

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8位の『光る風』ですが、山上たつひこさんの長編漫画を読んで、一部を抜粋して8ミリの長編映画にしたことがあるんです。

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漫画の設定は近未来なのに、過去の大戦中のように感じ取れる。あることから主人公の少年が収容所に入れられるんですが、汲み取り便所に潜りこみ、糞まみれになって脱出する。その場面にインパクトがあり、僕の8ミリ映画はそこから撮り始めました。

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長編ですが原作の抜粋で、軍国青年の兄が復員してきたものの手足を失い、屋敷の中に閉じ込められている。その兄が、主人公に恋心を抱くお手伝いさんに欲情し襲いかかるところで終わる。自信満々で上映したところ、「高校生らしくない」と大不評でした(笑)。

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ラストの『漂流教室』ですが、楳図かずおさんの漫画には、僕の映画『鉄男』に直結する『わたしは真悟』をはじめ一杯好きな作品があります。なかでも、シンプルに感動したのがこの作品です。

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じつを言うと映画にしたい。力点はどこかというと、お母さんの頑張り。大爆発によって小学校が忽然と消えてしまう。全員死亡とされるなか彼女だけは生存を疑わない。周囲から頭がおかしくなったと思われながらもこの母親だけは・・・・・・というドラマ。

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少年向け漫画にしては人間のエゴがむき出しで残酷な描写も多いんですが、素晴らしいのは最後。予想を完全に裏切られる。なんだか話しているとすぐにも撮りたくてうずうずしてきたなぁ(笑)。

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(構成/朝山実)

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▲最近読んだ1冊

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骨風
\r\n篠原勝之著 文藝春秋 1650円

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「無頼な印象のクマさんですが、父親の暴力で対人恐怖症になったとの告白に息をのみました。母親の認知症の話など温かい筆致で描かれる中で父親だけはとても怖い。『野火』のように戦争で心に傷を負った人かと想像しました」

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塚本晋也さんのわが人生ベスト10冊

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第1位『野火
\r\n大岡昇平著 新潮文庫 400円
\r\n太平洋戦争末期。ひたすら食糧を求めてフィリピンの密林をさまよい歩く日本兵たちの惨状を綴る戦争文学の金字塔

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第2位『悪魔のように細心に! 天使のように大胆に!
\r\n黒澤明著 東宝 入手は古書のみ
\r\n『姿三四郎』から『デルス・ウザーラ』まで25作品の資料写真。映画の編集、シナリオづくりに関しての随想を収録

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第3位『太平洋ひとりぼっち
\r\n堀江謙一著 舵社 1429円
\r\n「お金はない。でも、ヨットが必要というので綿密に資金集めの計画を立てる。『野火』を撮る際の心のバイブルです」

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第4位『少年探偵』シリーズ 江戸川乱歩著『夜光人間』
\r\nポプラ文庫 540円他
\r\n名探偵・明智小五郎と助手の小林少年。そして怪人二十面相。日本中の子供を虜にした名作

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第5位『火の鳥』未来編・鳳凰編・宇宙編・復活編
\r\n手塚治虫著 角川文庫他
\r\n「鳳凰編で極悪人がてんとう虫を生かす場面が印象的。長い時間旅したような読後感です」

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第6位『哀しい予感
\r\n吉本ばなな著 幻冬舎文庫 395円
\r\n「別の場所に本当の現実があるというのは、僕の『鉄男Ⅱ』に繋がります」

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第7位『余白の愛
\r\n小川洋子著 中公文庫 590円
\r\n「聴覚障害のある女性が男性に惹かれたのが速記をする手だったり、静謐な描写がいい」

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第8位『光る風
\r\n山上たつひこ著 フリースタイル 1900円
\r\n戦時の恐怖を描き、衝撃を与えた長編漫画。初出は'70年の「週刊少年マガジン」

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第9位『阿寒に果つ
\r\n渡辺淳一著 中公文庫 680円
\r\n画才を称揚されるも自死する女子高生と男たち。「自分も20歳が寿命と思い、焦りました」

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第10位『漂流教室』(全6巻)
\r\n楳図かずお著 小学館文庫 各581円
\r\n荒廃した未来へ学校がタイムスリップ。食糧争奪、怪物の襲撃・・・・・・戦慄のパニック漫画

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『週刊現代』2016年2月6日号より

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