世界的経済学者が描く、資本主義の怪物が破壊した本当に大切なもの

地球という惑星の正気を取り戻す思考
ヤニス・バルファキス プロフィール

巨大企業に「ご近所」はない

「リベラリズムの致命的な偽善は」アイリスはさらに非難する。「近所の肉屋、パン屋、ビール醸造者の存在を喜んでおきながら、恥ずべき東インド会社やフェイスブック、アマゾンを擁護したこと。これらの巨大企業にご近所はない。パートナーもいない。道徳感情にも配慮せず、競合を破滅させるためには手段も選ばない。パートナーシップを匿名の株主に替えることで、私たちはリバイアサン(怪物)を生み出してしまった。それがついには、イヴァ、あなたのようなリベラルが大切だとおっしゃる、あらゆる価値を台なしにして否定したのよ」

話しているあいだに、自分の言葉につい感情が昂ったこともあり、アイリスはコスティが描き出す世界について、思わず熱っぽく語っていた。

「藁にもすがろうってわけね、アイリス」イヴァの顔には憐れみの表情がありありと浮かんでいた。「市場の美点は、最も適した組織のかたちが生き残る自然の生息環境だってこと。それ以外は架空の世界でしか生き残れない。1人1株の原則に基づく民主的な企業が、どんな意味でも優れているのなら、いま、ここに存在しているはず。ところが実際、それはコスタが空想する報告のなかにしかない」

それを合図にコスタが口を開いた。「ある環境で進化したシステムが証明するのは、そのシステムが、その環境でみずからを複製するのが得意だということだけだ。僕たちが暮らしたくなるようなシステムを生むわけでもない。さらに重要なことに、より長く生き残る能力を表しているわけでもない。環境は変わる。時に急激に、時にシステム自体が及ぼす悪影響によって。ほかのシステムを打ち負かすことは、それらのシステムと調和して生きる以上に、自己破壊を招くかもしれない。

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ウイルスがいい例だ。エボラウイルスは感染力と複製力が極めて強く、宿主の致死率は、たとえば新型コロナウイルスと比べてもはるかに高い。新型コロナウイルスは「比較的無害」でありながら、2020年に資本主義を屈服させた。問題は、株式取引と資本主義がこれまでほかのシステムを打ち負かしてきたかどうかではない。そのふたつの影響として、宿主である社会が果たして生き残れるのかどうかなんだよ! そして、それについて言えば、君たちふたりがまだ考えていない、別の要素も考慮に入れるべきだ」

「へえ、そうなの?」とイヴァ。「まあ、そう言うんなら、ご親切に教えてくださらない? 私たちが見落としたという、その要素を」

「テクノロジーだよ、もちろん」それがコスタの答えだった。