権力と圧制なしに、会社にも家庭にも「平等」はないという矛盾と絶望

資本主義が倒れても「家父長制」は生き残る
ヤニス・バルファキス プロフィール

他人を支配する力をどうやって封じ込めるのか?

「リベラルとして」アイリスは直接イヴァに話しかけた。「あなたもきっと同じ意見だと思うけど、ここで答えるべき本当の問いはこうじゃない? 他者を支配する力を、どうやって封じ込めるのか。職場などのいじめは、どうやって阻止できるのか。フラット組織は、家父長制と戦うための妥当な第一歩なのか」

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いろいろな証拠がある、とアイリスは言った。いっぽうでは、公的に平等主義を謳う場所で最悪の虐待が横行している。その最たる場所が家庭だ。そのいっぽうで、コスタが指摘したように、合意に基づく形態において組織が完全にうまく機能できることを、多くの人が毎日のように証明している。

「あなたは小事にかかわって、大事を忘れていると思わない?」今度はイヴァが反論する番だった。イヴァにとってはるかに大きな懸念のもとは、ピラミッド構造を排除したことではなく、株式取引を禁止したことだった。威圧的な同僚が権力を握りすぎないか、と心配することは贅沢な悩みだ。起業するか事業を大きく育てたい時に、株式の売却を禁じられていたらどうだろう。そこに象徴される、合理性と自由とを揺るがす甚だしい脅威と比べれば、専横な同僚など贅沢な悩みにすぎない。「株の購入を禁じるだけでも充分ひどいのに、それを権力の民主化という名の下に行なうなんて、まったく追い討ちをかけるようなものよ」

イヴァはコスタがどこでその通信文を手に入れたのか、聞いていない。だが、どうせコスタのユートピア的な空想の産物だろうと考えていた。だから、コスタが自由市場の代わりに思い描いたのが、お決まりの集産主義者の悪夢でなかったことに励まされる思いだった。イヴァはもう長いあいだ、コスタとアイリスという左派の友人に対して、自由市場を擁護してきたのだ。