子どもを個人として尊重したい

幡野さんは、『ぼくたちが選べなかったことを、選びなおすために。』の中で、自身が経験してきた事実を淡々と書いている。

「子どものことを、個人として尊重するのか。それとも、自分の所有物として大事にしているのか。子どもの頃から大切に育てられて、尊敬出来る親なら縁を切る必要なんてありませんよね。僕の親は、割と自分勝手で、子どもをコントロールしようとして、自分の考え方や意見を押し付けてくる人でした。僕は、もしも親を選べるなら自分の母親は絶対選びません。生みの親だからといって、無条件に『自分が選ばれる』と思っていたら大間違いです

幡野さんを撮影する息子の優くん。「好きな人を撮るのってうれしいよね。お父さんもおなじだよ」と幡野さんは綴る 『写真集』(幡野広志/ほぼ日)より(C)Hiroshi Hatano

原稿を書き終えた幡野さんは、今回取材した人たちを再び訪ね、印刷前の原稿を読んでもらったという。内容に誤りがないかを確認してもらうためだ。すると、全員から「気持ちが楽になった」「救われた」と言われたという。

「よく『人に話すと楽になる』と言いますが、文章化するともっと救われるんだなと思えたのは発見でした。活字として可視化されることで、自分を客観的に振り返ることが出来るんでしょうね。苦しんでいる人は誰かに話して、それを文章に起こしてもらうといいのかもしれません。『すごく楽になった』とみなさん言っていましたので」

 

自身の経験や取材を通じ、幡野さんが改めて思ったのは、

自分がされて嫌なことを子どもにするのはやめよう

ということ。彼と話をしていると、生きづらさを抱えている人にとって、幡野さんの存在が光になるのではないかと思った。幼少の頃から親の愛情を確信できなかった彼だが、今は息子への愛情あふれる立派な親となり、家族の絆を何よりも大切にしている。そうできている存在が、多くの人への光となるではないかと。

どんな環境に育った人であれ、『自分がされた嫌なことを人にしない』という考えひとつで、自分を変えていける気がするんですけどね。誰だって、嫌なことをされたら相手のことも嫌いになります。僕は息子にとっての『嫌な人』になりたくなかった。自分の親や、周囲にいた大人のようになりたくなかった。だって、息子に嫌われたくありませんから」

妻の由香里さんが撮影した幡野さんと息子の優くん 『写真集』(幡野広志/ほぼ日)より (C)Yukari Hatano


ぼくたちが選びたかったことを、選びなおすために
2017年3月に感じた違和感から知ったときのことから、様々な「選択」について全身全霊をかけて紡いだ一冊。家族、友人、仕事、生と死――幡野さんが多くの人を取材し、対話をして見えてきたものが強く優しく私たちに伝わってくる。