スマホに残されていた「死ね」
ありえない対応の連続に言葉を詰まらせた僕の、どんよりとした空気を一変するかのように、洋は仏壇の脇から一台のスマホを取り出してきた。陽菜が愛用していたもので、電車に飛び込んだ際にも携帯していたという。
「最近、やっとパスワードがわかりました。中が見られるようになったんですよ」
ガラスは何重にも割れ、壊れているかと思われたが、電源ボタンを押すとスマホは起動し、凄惨ないじめが呼び覚まされるかのごとく、悪意に満ちたメッセージが画面に浮かび上がった。
〈消えろよ死ね〉
それは、いじめや学校側の対応の不備を、僕が確信する瞬間でもあった。もはや事件だ。結果は自殺だが、SNSによるリンチが陽菜さんを殺したのだ。

八王子市立第六中学校。陽菜への悪意が渦巻いていた校舎である。黄昏時、ちょうど校庭で陸上部が練習をしていた。一心不乱に打ち込む者もいれば、友達と談笑しながらだらだら走る生徒もいる。かつて陽菜が語り合った同級生もいるはずだ。彼女はここで1年の夏まで過ごし、その後、不登校になりこの世を去った。が、何度見ても、日本のどこにでもある日常の一コマに過ぎない。こんな場所で、なぜ。僕は全く理解できずにいた。
何気なく周囲を見回していると、あることに気づいた。ジャージを穿き、いかにもといった出で立ちで練習を見守る1人の男。間違いない。洋が語った容姿から察するに、男が陽菜を見捨てた張本人だ。教え子が部活内のいじめが原因で自殺していながら、のうのうと陸上部の顧問を続けられているだなんて。学校側に常識がないのか、はたまた本人が図太いだけなのか。