プーチン退陣説の根底に流れる「8月のあの記憶」

エリートに背かれはじめた独裁者

インテリジェンスの世界で飛び交う「プーチン重病説」。英国MI6元長官が明かした驚きの内容を踏まえ、状況は動いていくのか……。前編記事『世界中の人が「プーチンの表情」に抱く違和感の正体とは』に引き続き紹介する。

「8月」はクーデターの月

ロシアでは、8月という月には「ある記憶」がまとわりついている。

'91年8月19日。ソ連共産党最後の書記長(当時ソ連邦大統領)だったミハイル・ゴルバチョフが、休暇を過ごしていたクリミアのダーチャで軟禁されたのだ。それは、ウクライナを始めとする、ソビエト連邦内15共和国の権限を拡大する「新連邦条約」締結を阻止するためのクーデターだった。

モスクワ中心部に戦車が出動し、モスクワ放送局が占拠されたが、ゴルバチョフの後継者だったエリツィン(当時ロシア共和国大統領)が呼応せず、クーデターは失敗に終わった。しかしこの後、ゴルバチョフは権力の座に返り咲くことなく、ソ連はその年の末に消滅する。

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この前年までKGBに在籍していたプーチンが、このことを忘れるわけがない。

拓殖大大学院特任教授の名越健郎氏は言う。

ソ連8月クーデターを主導したのは、ゴルバチョフの側近だったヤナーエフ副大統領、クリュチコフKGB議長、パヴロフ首相、ヤゾフ国防相らトップ8人でした。いわばクレムリンの"宮廷クーデター"だったのです。

現在、数日で終わるはずだったウクライナ侵攻に手間取り、プーチンには出口戦略がない。民衆の支持は83%と高くても、ロシアを実質的に動かしているエリートの反発が出始めている。エリートとはオリガルヒ(新興財閥)とシロヴィキ(軍・諜報幹部)です。プーチンはそうした情勢を警戒して、大統領直属の治安部隊を強化している

前出・中村氏は、こう予想する。

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