なんで一番最初に私を…

1時過ぎ。日をまたいでいた。
脱衣所で服を脱ぎ、風呂場で湯をはるボタンを押した。
膝を軽く曲げて入るスペースの浴槽におさまり、溜まっていく湯を待つ。まだ足の甲すら埋まっていない。裸になるのが早すぎた……と、やっと思う。壁の四隅に下から生えてくるような黒カビがある。実家に戻った時から、どんなに掃除しても取れなかった。ふううっと見上げると換気扇の柵に媚びりついた黒カビと目が合う。ピピッ、ピピッとお知らせ音が鳴る。1年聞き慣れた「モウスグ オフロガワキマス」の機械音を一緒に唱えたら、上を向いているのに後ろ向きな涙が溢れた。

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「すみ、すみー、大丈夫か?パパ、ちょっと心配だ。変なふうに考えたらダメだぞ、すみ?すみー、聞こえるか?聞こえたら返事してくれ」と風呂の擦り戸越しにマヌケな声がする、父だ。
変なふうってなんだ。

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「聞こえてる」と返すも「すみー?」と耳の遠い聞こえていない父がドンドンとドアを叩く。

「聞こえてる!」と返す。「すみー、早まったらダメだぞ、すみー、溜め込んだらダメだ、吐き出してごらん、すみー?」
死ぬか。見当違いも甚だしい。

「聞こえてる!!誰の心配してんだ!今一番心配なのはママでしょ?向き合え!……何でママは!……何でママは!私を一番最初に忘れちゃうの?せめてパパが先、私が後だろ!!」

「えー?もう一回言ってくれないか?全然聞こえない」

特に後半、2回言えるか。吐露した私の根っこはしょぼい。浴槽から立ち上がり、戸の隙間を開け「うるさい!もう出るから!」と酔っ払いを追い払った。
背中越しに、タララ~タララ~「オフロガワキマシタ」とクラシック音と共にお知らせが響いた。