何か変なんだ

36度4分……。
逆にどうしてよいかわからない。

母が鬼の首を取ったかのように「思い知ったか! 散々騒ぎやがって! 偉そうに! 何様だ! やることなすことぜーんぶ間違えだらけなんだよ! あっちいけ!」と吠え、頭から布団をかぶった。

……あっちには行かなかった。
平熱であろうと、どんなに見当違いであっても、
何か変なんだ。

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電気を小さい灯にして、少しだけ距離をとり床に座り込んだ。何もしない、ただじっとしていた。

どれだけの時間そうしていたのか。短いのか長いのか。静止画のようにそこにいた。

いつの間にか母が布団から顔を出していた。
どこを見ているというわけでもない。
ポツリポツリとお喋りを始めた。

「もうすぐお姉ちゃんと出て行くから。市営住宅は抽選でね、今年はもう終わっちゃったんだって。来年ね。そしたらあんたも頭カチ割って死なずにすむだろう。あんまりいい家庭環境が作れなくて悪かったねえ」


「あんたサドルがボロボロの自転車乗ってるでしょ。ママのあげるから。あれは電動だから楽よ。あれくらいしか残せるもんがないねえ」


「うそばっかり。玄関の花、貰ったって言うけど買ってるんでしょ。生まれて初めて働いた最初のバイト代だろう。本屋のバイト代安いでしょ。自分のことに使いなさい」


「ママはワクチン打たなかったから、こんなことになったけど、お姉ちゃんはなんとか打たせてやってね。パパクソは多分自分で病院くらい見つけられるから放っておいていい。もう一人、娘がいたと思うんだけど、元気だろうか」