日本文明は「中華の衛星文明」なのか、それとも独立文明なのか

「王」ではなく「天皇」にした日本人の叡智
日本の教科書が教えてきたアジア史は、いわば中国中心の見方だった。「殷、周、秦、漢、三国、晋…」と、紀元前からの中国の王朝名を中学一年生で暗記させられた経験は誰でもあるだろう。しかし、それではアジア全体の歴史のダイナミズムを感じ取ることはできない。アジア史はもっと雄渾で、さまざまな民族が闘争を繰り広げてきた。彩り豊かなその歴史を、民族・宗教・文明に着目して世界史を研究する宇山卓栄氏の新刊『民族と文明で読み解く大アジア史』(講談社+α新書)から、おもに日本と中国、朝鮮半島との関係について連載でご紹介する。今回はその一回目だ。

日本、韓国、ベトナムは中華文明?

アメリカの国際政治学者サミュエル・ハンチントンは著書『文明の衝突』で、日本を中華文明とは一線を画する独立した文明圏と位置付けています。ハンチントンは、日本は神道や天皇の存在を中核とした独自の文化を形成し、それは中華文明とはまったく異質なものであると主張しています。また、日本文明を一国で完結している「一国一文明」と定義しています。

一方、イギリスの歴史家アーノルド・トインビーは、日本文明は中国からの文化的影響を強く受けた中華文明の衛星的存在であると主張しています。日本のみならず、韓国、ベトナムの3国が中華文明に属していると言います。トインビーはその根拠として、これらの3国が第二次世界大戦の前まで漢字を用いており(日本は今も用いている)、また、儒教・仏教・道教のような宗教文化を中国から取り入れたことなどを挙げています。

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トインビーの大著『歴史の研究』は12巻から編成され、1930年代に書かれた前半巻では、トインビーは日本が中国から多くの影響を受けたと述べていますが、「衛星文明」とは明示していません。しかし1961年に発刊された第12巻「再考察」で、トインビーは諸文明を「独立文明」と「衛星文明」に明確に区別し、日本を後者に分類したのです。

トインビーは、「衛星文明」は「独立文明」に依存しながら形成され、宗教、政治制度、文字や技術等を独立文明から借用して未開から文明へと飛躍することができた自立不可能な従属文明であると述べています。トインビーは日本文明をほとんど理解していなかったのでしょう。

さらに、トインビーは1970年代前半、ヨーロッパ文明が世界を牽引した時代はすでに終焉を迎え、これからは東アジア文明の時代、特に「中国の時代」が到来すると主張しています。中国を中心として、日本、韓国、ベトナムの3国の中華文明衛星国が協調し、東アジア文明を再興することにより、世界は統合され、安定、繁栄を享受できるというのです。中国と安全保障上のさまざまな問題を抱える我が国にとって、トインビーの「協調への提言」はあまりにも非現実的と言わざるを得ません。

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