スタジオジブリ 宮崎駿監督をどう評価するのが正しいのか

村上春樹と並ぶ国民作家
『借りぐらしのアリエッティ』も大ヒット

週刊現代 プロフィール

 弱者の視点、人と自然、機械の共生-宮崎監督はそうした独特のメッセージを「絵と物語」によって発信する。アニメーション研究家・氷川竜介氏はこう言う。

「物語作家として評価するのは難しい。彼のアニメを小説に書き起こせばいかにつまらなくなるかすぐにわかります。それよりも彼の作家性は原作を絵にする能力が抜群に高いことにあるんです」

 スタジオジブリの現場は監督、脚本、編集など分業制が採用されている。監督は通常、絵を描くことは少ないが、宮崎監督は自ら絵コンテを描き、スタッフに次々と注文をつけていく。監督は自らを「アニメーションの奴隷」と呼ぶほどだ。

「長編アニメーションの制作は数百人の分業が基本ですが、宮崎さんは全工程を細かく統轄し、作画は自ら徹底的に描いて直す。莫大な労働量を伴う中央集権的演出です。この手法で10作も監督したのは奇跡です」(映像研究家・叶精二氏)

 多くのスタッフを抱えながら、肝心のところは自分がやらなければ気がすまない。前出の稲葉氏が鈴木敏夫スタジオジブリ代表取締役への取材を振り返る。

「鈴木さんが仰っていたのは、『宮崎駿は後継者を育てないと言われる。長編の場合は組織で作るものだが、宮崎アニメは違う』ということなんです。時間と体力、気力が許せば一人で最後までやってしまう人だと。個人制作をみんなが手伝っているのが宮崎アニメだと言っていました」

 商業的に大成功を収めたジブリで、相変わらずひとりで絵コンテを書くという作業は宮崎にしかできるものではないだろう。そこには天才ゆえのこんな孤独が潜む。

「スタジオジブリは育っている若手もいますが、中には『勉強になるし、刺激になるが、そこから先は宮崎本人になるしかない』と言って辞めていく人も多い。

 宮崎さん自身にも『どうして若い俺がいないんだ』という苛立ちがあるという話はよく聞きます。そういった意味で、『アリエッティ』は味こそ薄くなっていますが、宮崎駿の"クローン化"に成功したと言えるのかもしれません」(前出・氷川氏)

 同業の立場から話すのは『劇場版マクロスF』などで知られるアニメーション界の巨匠・河森正治氏だ。

「いま、アニメ映画の根底にある『絵を崩さずに動かす技術』などが徐々に落ちているなか、ジブリの作画は、常に熟成されたレベルにありますね。ただ、内容面はマンネリ化している感は否めません。マスコミや観客のジブリ作品に対する批評の目がなくなってしまった。それを取り戻せば、さらに優れた作品が生まれるはずです。

 宮崎アニメで私が好きなのは、映画そのものよりも絵コンテ、そして音がほとんど入っていない『ラッシュフィルム』。これを観るとイマジネーションが喚起されます。音が入ることで説明過剰になってしまう。というのも、宮崎さんの作品は絵ですべてを語っているからです」

ああ面白かった、でいい

 '97年、『もののけ姫』は観客動員数1420万人を記録し、アニメ作品ながら、当時の日本映画の興行収入1位に。以来、宮崎監督は国民的作家と呼ばれる存在になった。その後も、『千と千尋の神隠し』('01年)では観客動員数2350万人を記録。『ハウルの動く城』('04年)、『崖の上のポニョ』('08年)と、大ヒット作を定期的に発表している。