2022.06.10
# 経済安全保障 # 量子コンピュータ

異次元の超高速計算機「量子コンピュータ」の「本当の実力」

米国の安全保障政策の切り札
米国のホワイトハウス(バイデン大統領)は今年5月、主要各省やその下部組織などに向けて国家安全保障に関する一通のメモランダム(通達)を発出した。この通達は、「量子コンピュータ」をはじめ量子情報技術の開発で国際社会における米国の主導的地位を固めると同時に、この極めて特殊な次世代計算機が暗号システムにもたらす危険性を緩和するために今から準備を開始せよ、と指示する内容であった——。6月15日(水)に発売となる『ゼロからわかる量子コンピュータ』の著者・小林雅一氏によるレポート。

量子コンピュータとは何か?

上記のメモランダムに見られるように、今や超大国アメリカの安全保障政策をも左右する量子コンピュータとは一体何なのか?

量子コンピュータとは、本来ミクロ世界を解明する物理学である「量子力学」を計算の基本原理として応用した「異次元の超高速計算機」のことだ。元々、1980年代初頭に伝説的な米国の物理学者リチャード・ファインマンが発案したとされる。

それによれば、様々な物質の構成要素である原子」や「電子」のようなミクロの存在は一般に「量子」と呼ばれ、私達が生きるマクロな日常世界からは想像もつかない奇妙な振る舞いを示す。

その一つが「量子重ね合わせ」と呼ばれる現象だ。これは一つのモノ(量子)が同時にいくつもの異なる状態を取り得る、という不思議な状態だ。

量子コンピュータでは、この「量子重ね合わせ」現象を利用して自らの内部に自らの分身を無数に作り出す。これら無数の分身が協力して一つの仕事をこなすことにより、常識では信じられないほど超高速の計算能力が育まれるという。

それは一体どれほどの計算速度なのか? 

たとえばグーグルが2019年に発表した有名な「量子超越性」の実験結果によれば、当時世界最速に認定されたIBM製のスパコンで2万年かかる計算を、グーグルが開発した超伝導方式の量子コンピュータはわずか3分20秒で終わらせる事ができた、という。

また中国科学技術大学も翌2020年に同様の実験を実施したが、このときは同じく当時の世界最速スパコンに認定された日本の「富岳」で6億年かかる計算を、同大が開発した光方式の量子コンピュータが(前年のグーグルと同じく)3分20秒で終わらせることができた、との実験結果が報告された。