2022年4月1日から保険適用が開始された不妊治療。保険適用となり、不妊治療が 「正規の医療行為」として公認され、妊娠を望む人に可能性が広がったのは素晴らしいことだ。しかし「保険適用」によってできなくなることも多いという。
出産ジャーナリストの河合蘭さんが医療の現場に取材し、現状を伝える。

不妊治療クリニックの現場の声

不妊治療保険適用が全国で一斉にスタートして1月半――この間、治療の現場では何が起きたのだろうか。不妊治療クリニックの現場3ヵ所に様子を聞いてみた。

患者数は増えているようで、どのクリニックも忙しそうだった。
「私の勤めるクリニックでは、今までにこんなにたくさんの採卵があった時期はありません。新規の患者さんも多くいらっしゃいます」
そう言ったのは、関東地域のとある不妊治療専門クリニックに勤務する助産師のTさんだ。

「初めて卵を採る方も目立ちますね。これまではお金がかかるから体外受精に踏み切れなかったけれど、保険適用になったことを機に始めようと思った方が、保険適用開始を待っていらしたのでしょう」

そして、これまでとはまったく違うシステムとなったため、その切り替えは相当に大変なようだった。

『保険診療になった』と言われますが、実際には、国が認めた部分だけに保険が適用されます。そのことがわかっていない方もいらっしゃるので、その説明も大変です」
ニュースはたいてい「保険が適用されるようになった」と簡単に言うけれど、実際の不妊治療はさまざまな薬や治療の組み合わせで複雑だ。くわしいことは、クリニックに来て初めてわかった、という人が多いようだ。

保険診療では、薬も、やり方も、すべて国が決めたものでなければならないんです。自由診療でずっと使ってきたお薬が、一部ですが、保険では認められなかったものもあります。これまで不妊治療をしてきた人の中には、保険で治療するために今までの薬をほかのものに変えた方もいますし、保険では使えない薬が必要な方は自由診療のままです」

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「これ、保険でできないんだって」という誤情報も

不妊治療の専門クリニックであるメディカルパーク横浜(神奈川県)院長の菊地盤(いわほ)医師も「保険適用はとても大きな変化なので、当分はどこも大変」という。
「ツイッターでは、『 医師から、保険診療では麻酔が使えない、と言われた』『”高刺激”は保険ではできないらしい』といった奇妙な書き込みまで、流れました」

菊地医師によると、それは、医師が本当にそう言ったとしてもその施設の判断であって、決して一般的な話ではない。高刺激とは薬で卵胞をたくさん育てようとすることだが、それは体外受精の最も標準的なやり方だし、保険診療は麻酔が使えないなどということもない。みんなの関心が高まっている時はこうした情報も流れやすいので、今は、流れて来る情報をうのみにしない用心が特に必要だ。

もしそのクリニックの医師が言ったとしても、一般的な話ではないこともある Photo by iStock

しかし、実は戸惑いは、患者側だけではなかった。
どこまで保険でできて、どこからはできないかというと「医師にも、まだわからないところがある」と菊地医師は言う。

医師は、保険で診療をおこなうと、患者から自己負担分を受け取り、それ以外の分については月ごとにまとめて社会保険や国民健康保険へ請求する。そのためには、まず審査支払機関に「診療報酬明細書(レセプト)」を提出して認めてもらう必要がある。
「保健診療とはどのようなものか一般の方はご存知ないと思いますが、審査支払機関の審査が『これは適正な保険診療ではない』と判断したら、その治療について医療機関はお金をまったく払ってもらえないのです。

たとえば、保険で認められている薬を使っても、審査機関から『なぜ、この量が必要だったのか? 儲けようと思って、必要以上に使ったのではないか?』などと疑われる可能性があります。そうなったら医師は説明をしなければなりませんが、医師の言い分が審査機関に認められるとは限りません」