たとえ遠くに行けなくても、写真でなら旅ができます。東京・吉祥寺の写真集専門古書店〈book obscura〉の店主・黒崎由衣さんがセレクトした写真集をご紹介。(※「崎」の字は「たつざき」が正しい表記)

それぞれの美しさを探して

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国立公園を題材にした自然写真や写真集は数多く存在します。一方で、自然ではなく人が主題になっていたり、撮影する作家の感性が込められていたりと、文化的、芸術的要素の強い写真集も多く発表されてきました。広大、雄大な自然風景はやはり直に見るのが一番ですが、そのままカメラで撮るだけでは表現しきれない被写体を撮影者はどのように切り取ってきたのか。同じ場所で撮ったとしても、まったく異なる写真になるから不思議です。作品から作家の視点や行為を垣間見られることこそ、写真集ならではの楽しみ方といえるでしょう。

紹介した写真集の作品は、「美しい」だけでは形容しきれないものばかり。美しいという言葉はたった3文字ですが、写真家たちは、さらに細かく嚙み砕き、ときに言葉では表せない何かでその被写体を表現しています。ページをめくれば、絵画のようなモノクロームの風景、人の営みや行為の記録、作家本人の主観を込めたアングルなど、実に表現は多様なのだと気づかされます。写真家たちが出合った景色を、感性というフィルターで覗く。これこそが写真集で国立公園を旅することの醍醐味なのだと思います。

鳥取砂丘なら…
植田正治『砂丘 LA MODE』(朝日新聞出版)

出身地・鳥取の砂丘を自然のスタジオに見立て作品づくりをしていた植田正治。自身を含めた家族全員を被写体にした作品のほか、アパレルブランドのファッション撮影を行うなど、鳥取砂丘は植田正治にとって欠かせない要素でした。晴れの日を好み、雲のない日は出ずっぱりだったという逸話も残されています。


北海道なら…
Michael Kenna『IN HOKKAIDO』(RAM)

水墨画のような作風で知られるイギリス出身の写真家マイケル・ケンナは、2002年から北海道の風景を撮りつづけています。数ある作品のなかで最も代表的なのは、屈斜路湖畔にたたずむ「ケンナの木」と呼ばれる木の写真。現在、その木は倒木の危険があり伐採されてしまいましたが、この写真集で永遠に残り続けています。