無残な光景
まずはこの写真を、ご覧いただきたい。

海底に広がる美しいサンゴの森の一角が、まるで焼き払われたように真っ黒になっている。サンゴは死滅し、やがて"がれき"のように崩壊してしまう。このような被害がいま、沖縄を含む世界各地の海で相次いで報告されている。
サンゴを死に追いやる犯人は、「黒い悪魔」の異名でよばれている。果たして、その正体とは——。
「黒い悪魔」の正体
「黒い悪魔」の被害に遭うと、まず、サンゴの体の一部が黒くなる。その後、1日に1~2ミリメートルのペースで、黒い部分がジワジワと広がっていく。そして、最終的にはサンゴの群体すべてが黒く覆われる。
こうして、元気だったサンゴが次々と死んでいく。豊かなサンゴの森に恵まれていたはずの海底は、いつのまにか"焼け野原"のような眺めに変貌してしまう。
死んだサンゴはもろくなって崩れ、海底はがれきが散らばったような状態になる。やがて、サンゴの枝をすみかとしていたサンゴガニ類やテッポウエビ類といった生物たちも、姿を消していくことになる。
この現象に注目し、調査・研究に取り組んでいるのは、琉球大学名誉教授の山城秀之さんだ。
山城さんは、サンゴの病気について長年にわたって研究してきた。しかし、この異変の原因は、バクテリアなどが引き起こす「感染症」ではない。
サンゴを次々と覆い殺す不気味な「黒い悪魔」の正体は、「テルピオスカイメン」(Terpios hoshinota)という海綿動物の一種だ。

「テルピオスカイメン」とは、いったいどのような生き物なのか?