子供の頃は、空手家になりたかった

2020年、実際に起きた「少年による祖父母殺害事件」に着想を得て描かれた映画『MOTHERマザー』で鮮烈なデビューを果たした奥平大兼さん。同作で、多くの新人賞を受賞した彼の映画2作目となる『マイスモールランド』が現在公開中だ。『マイスモールランド』は、幼い頃から日本で育ったクルド人の少女・サーリャが、自らの居場所(アイデンティティ)に葛藤し、成長する姿を描いている。奥平さんが演じたのは、サーリャが父に内緒で始めたアルバイト先で出会い、心を開いていく少年・聡太。

出典/EMOTION Label Channel

「国家を持たない世界最大の民族」と呼ばれるクルド人の中には、住んでいた国の弾圧から逃れるために難民申請をして、諸外国に移住することも多いという。『マイスモールランド』では、ごく普通の高校生活を送っていたサーリャとその家族の難民申請が不認定となり、一変した日常の中にある葛藤が描かれる。そんな中で、奥平さん演じる“聡太”の率直な視線は、それまで他人事と感じていた“難民”問題を、自分の身近なこととして引き込むことができる少年らしいひたむきさがある。

奥平さんは在日クルド人のサーリャとアルバイト先で知り合い、互いにひかれあっていく聡太を演じている(『マイスモールランド』より)
-AD-

『MOTHERマザー』も『マイスモールランド』も、わかりやすいエンタテインメントというよりは、社会に対して「このことについて、一緒に考えてみませんか?」と問題提起をするような、メッセージ性が強い作品だ。傷つきやすい若い世代なら尚更、そういった世の中の“影の部分”に正面切ってぶつかっていくのには勇気がいるはず。人間の愚かさや、国家制度の危うさが浮かび上がる作品にスッと馴染んでいく彼は、どちらの作品とも、オーディションで役を勝ち取ったという。作り手の想像力を刺激していく少年――。彼の芝居に対する姿勢は、どのように生まれ、これから先どこへ向かっていくのだろう?

「子供の頃は、空手をやっていて、将来は空手家として生きていけるものだと本気で思っていました。空手がすごく好きだったので、強くなったら、これを仕事にして、ご飯を食べていけるのかな、なんて(笑)。今思えば、浅はかで子供っぽい考えなんですけど……。中学に入ってからはバスケを始めて、それもすごく楽しかった。でもあるとき、渋谷駅で友達とはぐれてウロウロしていたら、今の事務所の人にスカウトされたんです。当時は、部活に夢中だったし、芸能界なんてとんでもなく遠い世界だと思っていたから、僕自身は、入らないつもりだったんですが、母が、『やるだけやってみたら?』と言ってくれて」

撮影/張溢文
奥平大兼(おくだいら・だいけん)
2003年9月20日生まれ。東京都出身。演技未経験の初オーディションながら、数百人の応募者の中からメインキャストに抜擢され、映画『MOTHER マザー』で俳優デビュー。日本アカデミー賞新人俳優賞、キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞、ブルーリボン賞新人賞、日本映画批評家大賞新人賞を受賞。その後、ドラマ『恋する母たち』(TBS/20年)『ネメシス』(NTV/20年)などに出演。22年は、「アクターズ・ショートフィルム2」の『物語』、『早朝始発の殺風景』、(ともにWOWOW)でW主演を務めた。他にもドラマ『卒業式に、神谷詩子がいない』、(NTV)、朝の情報番組「ZIP!」内の朝ドラ『サヨウナラのその前に』、(NTV)では火曜日の主演を務めた。