「生命科学の進展で、ラクなのに効果てきめんダイエットが実現!」とはならない理由

まず「情報に踊らされないこと」が大切

話題がつきない、ダイエット法や健康法。何を食べれば体に良いのか、人々は毎日といっていいほど気にしています。食べものは何がどう良くて何がどう悪いのか、どこまで科学的にわかっているのか、あふれる情報のなか判断も難しくなっています。

本当に役立つ栄養学』(講談社ブルーバックス)では、食べものが体のなかでどうふるまっているかを解説しています。複雑でまだまだわかっていないことも多いのですが、食べものの科学の基本をおさえて健康に役立てたいものです。

生命科学研究で、ずいぶん人間の複雑な身体のしくみが解明されつつあるなか、確実なダイエット法や健康法ができないものなのでしょうか。

「オートファジー」「PCR」——生命科学の研究が身近に⁉

ある店で友人とお昼ご飯を食べていたとき、「オートファジー」という言葉が耳に入ってきました。「ずいぶん難しい話をしているなあ」と思わず、その言葉の聞こえてきたテーブルを見てしまいました。

オートファジーとは、細胞が自分の一部を分解する作用(自食作用)のことです。飢餓状態になると、生きのびるために活発になることが知られています。近年は発生や免疫、老化などさまざまな生命現象に関わることもわかってきました。東京工業大学大隅良典栄誉教授がオートファジーの仕組みを解明し、2016年にノーベル生理医学賞を受賞したので、ご存じの方も多いと思います。

隣のテーブルの声の主は、40代くらいの女性で、どうやらダイエットの話で盛り上がっているようでした。オートファジーとダイエットが関係あるのだろうかと、インターネットで検索すると、「オートファジーダイエット」がたくさんヒットしました。生命科学としてのオートファジーではなく、ダイエット法としてオートファジーがこんなにも話題になっていたとは知らず、びっくりでした。

【写真】ダイエットの話でもりがっている女性「オートファジー」が話題になっていてびっくりしたけれど…… photo by gettyimages

オートファジーダイエットとは、どうやら16時間空腹にすることで、細胞のオートファジーの機能を使う方法。ダイエットとアンチエイジングが両立できるということのようです。

ただ、生命科学の専門家によると、確かに飢餓状態になるとオートファジーの機能が働くという実験データは出ているが、人間の体や細胞のしくみは複雑で、オートファジーが働くメカニズムもさまざまな要因が絡みあっていて、16時間の空腹がダイエットになるとかアンチエイジングになるといったことは、科学的には言えない、ということです。

ダイエット法が科学的に理にかなっているかどうかは別として、新型コロナ感染症の流行で「PCR」もすっかりおなじみになったし、言葉が先行して理解までは及ばないにしても、生命科学の研究が少しは身近になったものだと感じます。

コロナのニュースでもう何度も聞いていると思いますが、あらためて説明すると、PCRはポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction)の略。遺伝情報をもつDNAを増幅する方法で、生命科学の研究では無くてはならない技術です。この方法を開発したアメリカの科学者キャリー・バンクス・マリスも1993年にノーベル化学賞を受賞しています。やはりノーベル賞を受賞するテーマは、どこかで社会とつながるものなのかもしれません。

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