「核シェアリング」妄想に異議あり プーチンを反面教師にすべき習近平【田中×浅田】

「憂国呆談」第1回【Part3】
3回にわけてお届けしてきた「憂国呆談」第1回の最終パートでは、ウクライナ問題に端を発した世界の安全保障を巡る議論に進みます。田中康夫・浅田彰の両氏の比類なき対話をご堪能ください。
この対談は全3パートのうちの3回目です(Part1はこちらから/Part2はこちらから)。

狡猾な安全保障の智慧を学べ

田中 「外交や対話によって平和を維持することはできない」なんて言い出す政治家や学者まで出現しているけど、それって「言葉」で選挙に勝利し、学位論文が評価された面々が自らの存在を否定する話だ。じゃあ平和は軍備によって維持できるのか、と茶々を入れたくもなる。

浅田 「アメリカと核シェアリング」いや「独自の核武装」なんて妄言が聞こえてくるほどだからね。

ウォロディミル・ゼレンスキーが役者としてうまくやってるってPart1で言ったのは、裏を返せば信用できないところがあるってことでもあるけど、少なくとも日本の国会に向けたリモート演説で核(原子力発電を含む)と国連改革の問題をアピールした、それは正しいよ。

NPT(核兵器不拡散条約。核軍縮を目的に、アメリカ、中国、イギリス、フランス、ロシアの5カ国以外の核兵器の保有を禁止する条約)がいいかげんで、核保有国が義務とされる核軍縮を進めるどころか核を使いやすい方向に持って行きつつあるし、イスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮も非合法で核を持ったわけだけど、だからこそ抜本的な国連改革と並んで核軍縮を進めるべきで、唯一の被爆国である日本にはその先頭に立つ歴史的責任がある。

裏を返せば、アメリカ、ロシア、中国、北朝鮮に加え、韓国も核を持ちたいって言ってる東アジアで、日本が核を持ったからって安全が担保されるのか。印パは対称関係にあってそれなりに安定してるようだけど、こっちははるかに複雑だからね。

田中 そもそも54基もの原子力発電所の維持管理すらままならない国ですよ。北朝鮮の弾道ミサイルに備えて防空頭巾の時代と変わらぬ頭隠して尻隠さずの訓練を、安倍晋三政権下の2016年に秋田県で実施して他国のメディアに失笑を買った国ですよ(涙)。

80基の核弾頭を保有する一方で、きな臭い中近東で標的となる蓋然性を踏まえ、敢えて原発は建造しないイスラエルの狡猾な安全保障の智慧を学ぶべきだよ。

浅田 アメリカの学校で銃撃事件が相次ぎ、銃規制が求められたとき、ドナルド・トランプが「教師に武装させればいい」って言った(苦笑)。そりゃ、日本のように侵入者が銃を持ってる確率が低い国では、教師が銃を向けてる間に生徒を逃がすことができるかもしれない。だけど、3~4人の侵入者が銃を持って入ってきたとき、こっちがヘタに銃を出したところで、乱射を引き起こす危険性が大きくなるだけでしょう。

そもそも戦略ぬきの兵器は無意味なんで、その意味で一応論理的に一貫した戦略があるのはアメリカとソ連/ロシアの相互確証破壊(Mutual Assured Destruction)戦略だけ。

相手の第一撃を生き延びた第二撃で十分耐えがたい損害を相手に与えられる確証破壊核戦力をお互いに持てば、どちらも第一撃を自制せざるを得ない。いわば互いの喉元に槍を突きつけあってるから、その状態で安定する、と。まさにMADな(狂った)論理で、だから何千発も核弾頭を持つことになるんだけど、一応一貫はしてるわけ。

それに対し、イギリスやフランスでさえ、最小限抑止、つまり「蜂の最後の一刺しで耐えがたい痛みを与えられる」みたいな漠然とした戦略しか持ってないわけ。

ソ連崩壊後、かつてのような通常戦力を失ったロシアが選択したエスカレーション抑止ってのも、戦争が有利に進まないとき小型核を一発かませば相手がショックで戦意を失うだろうっていうようないいかげんな戦略だと思うね。いまウラジーミル・プーチンがそういうバカなことをしなければいいんだけど……。

とにかく、東アジアであれどこであれ、少しずつ核兵器をもつ国が増えると、敵の第一撃を生き延びた第二撃では心許ない、つまり第一撃への誘因が生じてしまう。そんなことなら、とくに被爆国日本としては、国連や核不拡散体制の抜本的強化を主張した方がいいに決まってる。

安全保障理事会の常任理事国として拒否権をもつ、いわば警察幹部であるはずのロシアが自ら不法な侵略戦争を行ない、核兵器の使用さえちらつかせてるいまこそ、その好機だと思うよ。

Photo by Shinya NishizakiPhoto by Shinya Nishizaki

田中 あなたがた日本は国連安保理の常任理事国になりたいんでしょ、ロシアの軍事侵攻と拒否権の行使は問題ですよね、常任理事国入りが悲願の日本に期待してますよ、そのためにもウクライナにたくさんお金を下さいね、というゼレンスキーのメッセージに拍手喝采している脳天気な日本ということだよ。

浅田 まあ、アメリカには「リメンバー・パール・ハーバー」と言い、日本には核と国連改革を言い、とにかく口八丁手八丁で世界の支持を取り付けるって任務をうまく果たしてはいる。それを無批判に受け入れる日本人がいるとしたら、それがナイーヴすぎるだけ。

田中 アメリカの連邦議会では「リメンバー・パール・ハーバー」と挑発しても、日本の国会議員には「リメンバー・ヒロシマ・ナガサキ」とは決して言わない辺りも“役者”やのぉ。

ふざけんなと「真珠湾発言」に日本のネトウヨが脊髄反射したけど、広島・長崎に触れなかったゼレンスキーの二枚舌に反応しないリベパヨは逆に鈍感すぎると僕は思うけどね。「ロシアによる侵略と戦争犯罪に対する深い憤りとともに、祖国を守り抜く強い決意がひしひしと伝わってくるものでした」と日本共産党の委員長が礼賛ツイートしていたのにも驚いたけどね。

今は亡き勝谷誠彦氏がクリミア危機の2014年に最前線のドンバスまで自費で出掛けて、「行ってみたら、全然日本で報じられているのと違う状況がある。ウクライナの人たちの生活を破壊したのは、実はウクライナ軍」「子供達や病人がいる所に、ウクライナ軍は弾を撃ち込んでいる」と語る映像を、「たしかな野党」の皆さんは今一度、見た方が良いかも知れない。

 

浅田 日本はせっかく広島選出の岸田文雄が首相なんだから、もうちょっとうまく言うべきことを言わなきゃ。3月26日にラーム・エマニュエル駐日米大使と広島の原爆死没者慰霊碑に献花して「核兵器を含む大量破壊兵器の使用は絶対にあってはならない。国際社会に強いメッセージを発することになると確信している」って声明を出しただけ。

そう言えば、2016年に当時外相だった彼とジョン・ケリー米国務長官が広島を訪問し、1ヶ月ほど後に安部晋三首相とバラク・オバマ米大統領が訪問した、あれ自体は意味のあることだったと思うけど、オバマの牧師の説教みたいな演説はひどかった。「8月6日の朝、死が天から降ってきて、世界が変わった」って、巨大隕石じゃないんだから!

そうじゃない、「アメリカ軍が上空から原子爆弾を投下した」んでしょう。日本が先にアメリカを攻撃したってことはあるし、そもそも時代が違うけれど、広島・長崎のみならず日本の主要な都市を焼き尽くしたアメリカ軍の絨毯爆撃は、ロシア軍のグロズヌイ(チェチェン)やアレッポ(シリア)やマリウポリ(ウクライナ)の爆撃と桁違いの戦争犯罪だからね。

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