繰り返す電話を止めた方法
ある家では、娘さんが認知症のお母さんのお世話をしていました。娘さんは毎日、朝から昼ごろまで仕事に出かけ、その間、お母さんは家で一人になります。
この家族を担当している介護職は、娘さんからある日、こんな相談を受けました。
「職場にいると、母から『今どこ?』『何時に帰ってくるの?』という電話が毎日
10回は入るので、とても仕事になりません。何かいい方法はないでしょうか」
以前の記事〈認知症のお年寄りがすぐ「キレる」理由〉https://gendai.ismedia.jp/articles/-/94259では、声かけの大切さをご紹介しましたが、この場合は、「声かけ」だけでは効果がないことがわかります。
電話に出た娘さんは、必ず「今、仕事よ」「1時には帰るから」と伝えるはずです。また、電話がかかってきたら、「もう電話しないで」と言うこともあるでしょう。
ところがお母さんは認知症なので、記憶障害によって娘さんの言葉をすぐ忘れてしまうのです。だから、「電話したこと」「話した内容」を忘れてしまい、何度も娘さんに確認してしまったのです。

いろいろ考えた末、介護職は次のようにアドバイスしました。
「電話の上に小型のホワイトボードを取り付けて、『午後1時に帰ります』と
書いておいたらどうでしょうか」
娘さんがその方法を試してみると、仕事中にお母さんから電話がかかってくることはめったになくなり、業務に集中できるようになったそうです。
なぜでしょうか?
書いて掲示したら伝わった理由は、第一に、伝達手段が音声ではなく文字になった、という点にありました。
「考え続けられるようにする」のがいい
私たちは、話した内容を忘れないために、文字に残します。音声は、発した瞬間から消えていってしまい、確認できません。ですが、文字は消さなければ残るので、あとから必要なだけ時間を使って確認できます。
このケースでは、その「情報を残す」という作業をケアとして行ったのです。
認知症の人には記憶障害がありますが、それでも目の前に文字があれば、自分のペースで確認して、意味を理解することができます。ホワイトボードを掲示したあとは、
- お母さんが電話をかけようとする
- ホワイトボードが目に入る
- 気になっていた「娘の帰宅時間」が確認できる
- 娘に電話をする必要がなくなる
というふうになったのです。電話をかけようとするたびにホワイトボードに気づけるので、電話をしなくなったのでした。

記憶障害はそのままですが、「覚えなくてもいい」「確認できる」環境が整ったおかげで解決できました。
常に本人の目に入るようにするのも大切
このケースを読んで、〈わざわざホワイトボードを買わなくても、メモに書いておけばいいだろう〉と考えた人がいるかもしれません。悪くないアイデアです。
でも、「文字にする」という点では同じでも、メモでは不十分なのです。どうしてでしょうか?