しかし“オールド・マネー”といってもアメリカの歴史は若い。実際にはそれこそギルディッド・エイジに事業を拡大した新興成金たちが主だった。冒頭で触れたエリザベス・ホームズやアダム・ニューマン、そして「ファイヤー・フェスティバル」で大惨事を招いたビリー・マクファーランドといった詐欺師的なソシオパスたちのお手本は、カリスマとアイデアだけで大企業を作り上げたスティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾス、マーク・ザッカーバーグといった人物たちだが、両者の距離感は、スコット・フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』の主人公と、大した伝統もないのに上流階級に生まれ変わったオールド・マネーの関係によく似ている。チャーチ・ミッション・ハウスに自分のサロンを築けば、過去や出自を捨てて本物の上流階級に変身できると信じたアンナ・デルヴェイは、ギャツビーや『MADMEN』のドン・ドレイパーを思わせる、実にニューヨーク的な主人公だったわけだ。

-AD-

その夢は実現することなく、彼女の物語は終わった。しかし、アンナの伝説はニューヨークの街に刻まれている。いまチャーチ・ミッション・ハウスを見るとき、みんなが思い出すのはアンナ・デルヴェイのことだ。ここは彼女のモニュメントとなり、失った夢だけが持つ涙に似た輝きをはらんで、アンナの名前を永遠に囁き続ける。

アンナのように強烈な個性や魅力を持ちながらも、時代や周囲との軋轢で夢破れてしまった女性たちの生き様を描いた、山崎まどかさんの新刊『真似のできない女たち 21人の最低で最高の人生』。シンガー、ダンサー、女優、作家、修道女……1940年代から70年代のアメリカを生きた、21人の女性たちの姿とは。