更に映画『ティファニーで朝食を』(1961)でオードリー・ヘプバーンが演じたホリー・ゴライトリーが、このニューヨークのファッショナブルな謎の若い女性のイメージを永遠のものにした。トルーマン・カポーティの原作のホリーは「パパ活」のようなことで生活の基盤を築いている危うい娘だが、映画ではそこの部分はぼやかされ、オードリーの清楚なイメージによって生臭さは払拭された。その後、ニューヨークの主人公になった女性たちには、みんなどこかホリー・ゴライトリーに似たミステリアスな雰囲気が漂うようになる。

オードリー・ヘプバーン演じる、『ティファニーで朝食を』のホリー・ゴライトリー〔PHOTO〕Getty Images

ただ、不況が長引いて、ニューヨークの街でホリー・ゴライトリー的なヒロイン像が成り立つ基盤が危うくなったのも事実だ。しかし、21世紀はファッション雑誌以上に強力なファンタジー・ツールを用意していた。インスタグラムである。

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インスタグラムという“魔法の鏡”

このソーシャル・メディアは「なりたい自分」を演出するのに最適だっただけではない。“高価な服を着て優雅な生活を堪能する若い娘”のイメージにお金を出す企業が現れたのだ。現代のホリー・ゴライトリーはインフルエンサーたちである。インスタグラムがいかに架空の女性の物語を描くのに適したメディアかは、初期にパフォーマンス・アーティストのアマリア・ウルマンが証明している。彼女の『エクセレント&パーフェクション』(2014)はインスタグラムを使った初のメディア作品だ。ウルマンはそこでブランド物に囲まれ、整形手術を受け、貢いでくれる中年男性を見つける若い女のストーリーを展開してみせた。

どんな嘘っぱちな夢でも、インスタにアップされた写真だと真実のように見える。アンナ・デルヴェイはそれを最大限に活用した。特権階級の生活を送り、夢を叶える資金を持つ自分の物語をそこで構築したのだ。アンナにとってインスタグラムは魔法の鏡だったに違いない。