「“正しい日本語”というのは幻想だ」…国語辞典のレジェンド編集者がそう言い切る、意外な理由

元小学館辞書編集部編集長の神永曉(かみながさとる)さんは、日本最大級の国語辞典『日本国語大辞典 第二版』をはじめさまざまな辞書の編集に携わること、37年。その経験を活かして『悩ましい国語辞典』『辞書編集者が選ぶ 美しい日本語』などの著書を執筆、日本語の魅力を多くの人々に伝えている。日頃、何気なく使っているさまざまなことばについて、また辞書や図鑑といった書物について、神永さんと共に見つめ直してみたい。

国語辞典ファンの読者から「レジェンド」と称される辞書編集者・神永曉(かみながさとる)さん国語辞典ファンの読者から「レジェンド」と称される辞書編集者・神永曉(かみながさとる)さん

辞書とはことばの変遷を切り取り、記していく書物

今では読者から“国語辞典のレジェンド”と称される神永さんだが、辞典編集の職に就いたばかりのころは、仕事がイヤでイヤで仕方なかったと笑う。

「もともとは文芸書を作りたくて出版社への就職を目指していたのですが、思うようにいかず、小学館の関連会社で辞典や教科書を作っている尚学図書に入社。

自分の意志はまったく関係なく(笑)、人事で『日本国語大辞典』の編集部に配属となったのです。『日本国語大辞典』は小学館が刊行している辞典なのですが、当時、尚学図書には編集部の主立ったメンバーが残っていて、『日本国語大辞典』の改訂作業はここで行っていたんです。」

神永さんが編集に携わった『日本国語大辞典 第二版』神永さんが編集に携わった『日本国語大辞典 第二版』
 

「辞書の編集者は毎日、辞書の“あ”から“ん”までのゲラ(ゲラ刷りの略。印刷物の校正をするための試し刷り)を、『今日は●●ということばから、▲▲ということばまで』とひたすら読んでいき、記載内容に間違いや引っかかるところ、不備がないかを探していきます。

初校(最初の校正用のゲラ刷り)から、雑誌の場合は再校(初校戻しの修正を反映したゲラ刷り)、多くても三校くらいまでで校正は終わりですが、辞書の場合は五校、六校まで取っては、ずっと校正し続けるんです。

本当に終わりの見えない世界で、『俺は一生、こんなことをやるのか……』とかなり憂鬱になっていました(笑)」

関連記事