日本メディアが伝えない米国「保守派」の憂慮、ウクライナ問題の本質【田中×浅田】

「憂国呆談」第1回【Part2】
33年にわたって続く田中・浅田の伝説連載が現代ビジネスに移ってきた! 二人の論客が深く、そして軽やかに日本を、世界を語り合う「憂国呆談」、3回に分けてお届けする移籍第1弾のPart2。日本どころか欧米のメディアも報じないウクライナ問題の本質を、二人が徹底的に語ります。
この対談は全3パートのうちの2回目です(Part1はこちらから)。

ゼレンスキーは少なくとも不用意だった

田中 ウクライナを巡る「世界の潮流」を語ったPart1に続いてPart2の冒頭で、大きな声で語られる「正義」は往々にして裏表の落差が大きいという古今東西の公理を今一度、冷静に再確認しておこう。

湾岸戦争の時、「黒い水鳥」のニュース映像が世界中を駆け巡った。イラク軍が破壊した石油施設から流れた重油で身動きが取れなくなった鳥だと報じられたけど実は、米軍がイラクの石油精製施設に打ち込んだミサイルが原因だったにも拘らず、アメリカの広告代理店が仕込んだ「フェイク・ニュース」だったと戦争後に判明する。

僕は今、あれと同じスペクタクル・ショー的な「劇場型の戦争」への違和感を抱いているんだけど、その意味でも、日本の「リベラル言論人」たちはヴォロディミル・ゼレンスキーという熱病に罹っているんじゃないの。

奇しくもウラジーミル・プーチンが大統領に就任した2000年から22年間も志位和夫が委員長を務める日本共産党の議員や支持者も、徹底抗戦という総玉砕を大統領が主張するウクライナの国旗をツイッターのプロフィール欄に掲げている。僕だったら、ロシア・ウクライナ・アメリカ・EU・国連の旗を5つ一緒に表記するけどね(苦笑)。

Photo by Shinya NishizakiPhoto by Shinya Nishizaki

浅田 意外かもしれないけど、アメリカの右翼の現実政治(レアルポリティーク)派は、ドイツ再統一を急ぐべきじゃない、ましてNATOの東方拡大は危険だって言い続けてきた。地政学的に見てウクライナやジョージアは最後の緩衝地帯なんで、そこまで手を伸ばせばロシアも反発せざるを得ない、と。

その意味で、シカゴ大学教授の政治学者ジョン・ミアシャイマーなんかは今回も「ウクライナ戦争の責任はアメリカとNATOにある」って断言してるわけ──だからってプーチンを免責するわけじゃもちろんないけれど。

他方、人権と自由の擁護のためには他国への軍事介入も辞さないっていうリベラル介入主義によって、ビル・クリントン米民主党政権の時代、1999年にNATOがセルビアを中心とするユーゴスラヴィア軍を空爆し、最終的にコソヴォの独立につながる。

で、次のジョージ・W・ブッシュ米共和党政権になると、今度はレフ・トロツキーの世界革命論を右翼化したような新保守主義によって、逆の立場からNATOの東方拡大を進める。その過程でロシアとプ-チンがじりじり追い詰められ、とうとうキレちゃったわけだね。

理論的にはたとえば台湾には独立の権利があると思うけど、地政学的・歴史的な現実を考えると、蔡英文(ツァイ・インウェン)総統のように「台湾は実質的に独立しているから独立宣言は求めない」っていうような綱渡りをせざるを得ない。

いわば台湾の総統が独立宣言を求めるようなことをゼレンスキーはやってきたわけで、少なくとも不用意だったとは言えるでしょう。「私は最後までとどまる、みんなで戦おう」って言うのは一見カッコいいけれど、一般市民や外国の義勇兵が戦うとき法的地位や指揮系統はどうなるのか、休戦協定ができたとしてそれをどう徹底するのか、これまた不用意な部分があると思うな。

田中 共和党政権のリチャード・ニクソン、ジェラルド・フォード両大統領時代に国務長官を務めたヘンリー・キッシンジャーや、そのはるか前の1947年に創設された国務省の初代政策企画本部長としてソヴィエト「封じ込め」政策を立案するも晩年は行き過ぎた東西対立の激化を憂慮したジョージ・ケナンが唱えた「地政学的プラグマティズム」だね。

実はビル&ヒラリー・クリントン夫妻を始めとする民主党が内包するネオコン的な好戦的OSを共和党の中のリバタリアン的な厭戦的OSが軌道修正してきたアメリカは、複眼思考が不得手な日本では、なかなか理解されにくい意外な一面だ。

インドシナ戦争がフランスの敗北で終結後、ヴェトナムの反共勢力を支援したのは共和党のドワイト・D・アイゼンハワー政権だけど、実際に正規軍を派遣して泥沼化させたのは日本で未だに評価が高いジョン・F・ケネディ政権だ。

その泥沼から抜け出すべく1973年にパリ平和協定の調印に漕ぎ着けたのはキッシンジャーで、戦争終結を宣言した大統領はウォーターゲート事件のリチャード・ニクソン。1960年の大統領選でケネディに敗北しているニクソン自身は皮肉にも1953年、大統領のアイクに「ヴェトコン=南ヴェトナム民族解放戦線」の前身にあたる「ヴェトミン=ヴェトナム独立同盟会」が拠点を構えた山岳地帯への小型原子爆弾使用を進言して却下された副大統領だったとは言え。

 

ロナルド・レーガン政権で外交アドヴァイザーを務め、現在はリバタリアン系シンクタンクのケイトー研究所でシニアフェローのダグ・バンドウは、保守系ウェッブサイト「アメリカン・コンサーヴァティヴ」に「欧米はウクライナを表向き支援しているが、それは平和を作る為ではない。紛争や戦争が長引くほど、死者の数と破壊の量は多くなるのに、モスクワと戦うウクライナ人が最後の1人になるまで武器を提供し、停戦という外交的解決をゼレンスキーが出来ないようにする欧米の私利私欲と偽善に世界は高い代償を払っているのだ」と寄稿している。Part1の冒頭で紹介したエマニュエル・トッドと同じ見解だね。

シンガポールの元国連大使でシンガポール国立大学アジア研究所名誉フェローのキショール・マンブバニも「ウクライナのNATO加盟を無謀に主張し、西側諸国からの武器供与を加速させた面々は、ウクライナの地政学的な子羊を虐殺に導き、大規模な世界的不安定を生み出した道義的責任を負うべき」とアメリカの『フォーリン・ポリシー』誌に寄稿している。

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