小学生になる頃から、母からの肉体的・精神的暴力を受けてきた若林奈緒音さん(仮名)。現在40代だが、30代の結婚でようやく「自分は今の自分でも生きる価値がある」と思えるようになったのだという。そう思えるようになって、同じように苦しむ人がこれ以上出ないようにと、辛い体験を共有する決意をしたのが本連載「母の呪縛」だ。

若林さんは両親と2歳年上の兄、年子の妹の5人家族。男は男らしく、女は女らしくいろ、お正月も男性は座って飲み食いし、女性はずっと立って台所仕事をする。そんな家だった。

母の「呪縛」の大きな理由のひとつは、母が若林さんに「バレーボールの選手になる」という自分の夢を託そうと思ったことだったようだ。背が高く、運動神経もよかった若林さんを小学校の時から地元のクラブチームに入れ、推薦入学でバレーの強豪校に入れようとした。アタッカーとして活躍していた若林さんだったが、足を骨折しても強豪校の監督の目に留まるよう、試合に出ろと言う母についていくことができず、中学ではバスケ部に入部する。しかし「自分の夢を中断させた」恨みなのか、若林さんの進路にも口を出し続け、高校は看護学校に行けと命じていた。

中学の友人の死に直面した経験から、看護師になることは難しいと考えた若林さんは、兄が通っている商業高校に推薦入試を受けさせてもらうことを頼む。落ちたら看護学校に行けと言う母の言葉を聞きながら、見事に合格。しかし合格発表を見に行ったその日、バレー部に小学校のときのクラブチームの先輩がいることがわかり、母が歓喜をする姿に絶望をしたのだった。

母の呪縛、8回の前編では、高校に合格した当日、バレー部に入ることを当然と思う母からの恐怖の時間や、確執のあった兄との話をお伝えする。

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高校合格の日の悪夢

高校の推薦入試で無事に合格した日のこと。中学に行って担任の先生に合格の報告をし、午後の授業を終えて家に帰ると、母は叔母たちに電話をかけていた。

「そうなの。ううん、奈緒音は大したことないの。成績が良いお兄ちゃんのおかげ。同じ学校だから。安心やわ」

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私におめでとうの一言もなく……。私はそのまま2階に上がった。電話が終わると母が部屋に入ってきて、すぐにいつからバレー部の練習に行くかと聞いてきた。私は、中学3年間のブランクもあるし、小学生の時は、他の子より頭一つ背が高くて有利であっただけで、今はみんなと変わらないし、実力はないこと。はっきりとバレーが好きでもなければ、やりたいわけでもないので、入部しないつもりだということを伝えた。

その瞬間、ガツンと頭に衝撃がおきた。