2022.05.14
# デフレ # 日本経済

なぜ日本の国力(経済力)は、これほど低下してしまったのか?

「日本病」の恐ろしさと原因を分析
永濱 利廣 プロフィール

今や韓国よりも低い賃金

日本が安いのは物価だけではありません。図表1-3は、主要先進国と言われるG7諸国(日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ)+韓国の1年あたりの平均実質賃金を算出したグラフです。日本のずいぶん低い位置が気になると思いますが、まずは用語を説明しておきます。

縦軸にある「購買力平価」とは、わかりやすく言えば、「ビッグマック指数」を、すべての財・サービスに換算したようなものです。もう少し正確に言うと、「自国通貨と外国通貨で同じものを購入できる比率で算出された為替レート」です。これで実質賃金を比較しています。

例えば、同じ量、同じ品質の製品がアメリカで1ドル、日本で150円だった場合には、実際の為替が1ドル=116円だったとしても、1ドル=150円として考えるということになります。

なぜこれを使うかと言えば、国家間で物価水準が異なるからです。もし賃金の額面が他国より小さかったとしても、国内の物価がさらに安ければ、相対的にモノやサービスをたくさん手に入れることができますし、逆もまたしかりです。つまり「購買力平価」で見ることで、単に為替レートで単位を揃えただけでは見えてこない、より生活実感に近いかたちでの国際比較ができるのです。

さて、このグラフを見ると、圧倒的に飛び抜けているのがアメリカです。2000年から高水準で伸び続け、2020年時点での実質賃金は7万ドル(750万円)に届く勢いです。これにカナダ、ドイツが5万5000ドル(590万円)前後で続きます。

一方で日本は、イタリアに次いで低い位置にいます。2015年以降は韓国にも抜かれ、差がひらいています。イタリアはコロナ・ショックの影響で2020年は最下位になりましたが、2000年以降2019年まで、日本はイタリアより低い賃金でした。

長い間、賃金が上昇していない国も日本とイタリアだけです。日本は0.4%、イタリアはマイナス3.6%(ただし2019年時点ならプラス2.5%)で、2000年からの20年間、実質的に「昇給ゼロ」状態だったことを示しています。

対してアメリカは25.3%、カナダは25.5%、イギリスは17.3%、韓国に至っては43.5%と、世界の国々の賃金は右肩上がりで伸びています。

いかに日本の経済が、長期的に停滞しているかがわかります。

なお、韓国が順調に賃金上昇しているのは、最低賃金を段階的に引き上げ続けていることも大きな要因です。2013年~2017年の引き上げ率の平均値を見ると7.2%で、さらに2018年からは文在寅政権が10%を超える大幅な最低賃金の引き上げを行いました。この間、安い人件費でなんとかもっていたような中小企業はかなり姿を消して失業者も増えましたので、必ずしも良いことばかりではないのですが、国全体の賃金上昇には貢献したと言えます。

日本病の現状

日本病の様子は、「賃金上昇率」「インフレ率(物価上昇率)」「長期金利」「経済成長率」を並べてみても、よくわかります(図表1-4)。

「長期金利」は先々の期待なども織り込みながら動くので滑らかですが、実体経済を表す「賃金上昇率」や「インフレ率」「経済成長率」はギザギザしながらも右肩下がりのトレンドです。そしていずれも、1990年前後のバブルの頃の値を超えていません。日本はバブル崩壊以降、低所得・低物価・低金利・低成長の「4低」時代に突入し、30年後の今なお日本病から抜け出せていないのです。

では、なぜバブルが崩壊するとこういう状況になりやすいのでしょうか。

「バブル」とは、株や土地などの資産価値が実態より過剰に上がってしまうことです。

そのため、例えば不動産を担保にお金を借りる場合にも、その不動産の実力以上に高額なお金を借りられてしまいます。バブルが弾けたら当然、資産価値は下がりますが、借りたお金の額面は変わりません。売ろうにも、不動産の実力相応か、それ以下の値段でしか売れませんから、借りたお金が返せなくなります(過剰債務)。

こうして回収困難となった貸付金(貸し手側から見た債権)が「不良債権」です。バブル崩壊後の日本で、いちばん経済の足かせになったのがこの不良債権問題でした。

「経済が良くなる」とは、稼いだお金がモノやサービスの消費に使われて、世の中のお金の循環が良くなることです。しかし過剰債務になると、モノやサービスにお金を使う前に、まず借金を返済しなければなりません。稼いだお金が借金返済に回ってしまうため消費に結びつかず、消費が低迷していきます。モノが売れないので賃金が上がらない。賃金が上がらないので消費を控える──こうして、デフレに陥っていきました。