昨年末、イギリスの製薬会社であるラインファーマが経口中絶薬の製造販売について厚生労働省に承認申請をした際、日本産婦人医会会長が薬の処方にかかる費用について「従来の中絶手術同様の10万円程度」を想定していると発言したことに大きな批判の声が上がった。そしてこのとき、日本の中絶費用の高さにも注目が集まった。

事実、日本は他国に比べて中絶費用が高額であると、長年、日本のリプロダクティブ・ヘルスの問題に取り組んできた中絶問題研究家の塚原久美さんは指摘する。その背景にある問題とは?

※以下、塚原久美さんによる寄稿。

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中絶費用の調査はほとんど行われていない

日本医師会の「医の倫理綱領」には、「人類愛を基にすべての人に奉仕する」をはじめとする数々の崇高な理想が掲げられている。そしてその中には、「医師は医業にあたって営利を目的としない」もある。営利とは、言うまでもなく金儲けのこと、ビジネスのことである。ところが日本の産婦人科医療のうち、とくに妊娠・出産・中絶をめぐる医業はまさに「ビジネス化」している。

米ガットマッハー研究所の調べによれば、2014年のアメリカで保険がきかない場合の中絶費用は500ドル強(6万円強)であり、「高い」と評価されていた。2016年のアメリカの成人を対象とした全国調査で、400ドル(約5万円)の緊急出費の支払い方法を尋ねたところ、回答者の4割が「そんな金はない」「借金するか何かを売るしかない」と回答しているが、それよりも高い金額なのだから「高い」と評価されるのは当然である。
また、2011年に米国の6州で行われた調査では、中絶患者の41%が治療費の支払いが「やや困難」または「非常に困難」と回答。カナダのフェミニストも、中絶にかかる300カナダドル(約2万9000円)は「すべての人が払える金額ではない」として高すぎると述べていた(カナダではほとんどの州で中絶は公的医療保険の適用対象だが、保険未加入などの理由で自己負担になるケースがあり問題になっている)。

アメリカやカナダに比べると、日本の中絶費用ははるかに高額だ。昨年末、妊娠9週まで使える経口中絶薬が承認申請され、手術を伴わない治療により値段が下がることが期待されていたが、日本産婦人科医会の木下勝之会長が、経口中絶薬の料金は「従来の中絶手術同様の10万円程度」になると発言した。この「10万円」という金額は、いったいどこから飛び出してきたのだろう。実のところ、日本において中絶費用についての全国調査がなされた事例は、私の関わった2011年の調査(※)くらいしかない。その調査では確かに、妊娠初期の中絶費用は平均10万1000円という結果だったが、任意回答のアンケート調査だったので安めに報告されたのではないかと私たちは考えている。ちなみに木下会長が理事長を務める病院では妊娠初期の中絶は21万円である

※「我が国における中絶医療実態の調査研究」(研究代表者:金沢大付属病院講師・打出喜義)