自分の親が亡くなると、否が応でも向き合わなければいけない相続。残された家族で円満に財産を分割できればいいものの、仲が良かったはずの兄弟が遺産をめぐって対立し、中には「争続」にまでエスカレートしてしまうケースも見られます。
そういった事態を避けるために有効なのが遺言書ですが、「遺言書さえ残しておけば問題ない」とは限りません。ファイナンシャルプランナーの長尾真一氏が実際に相談を受けた山内家の3兄弟の事例を参考に、相続の「落とし穴」について考えていきましょう。
全財産を相続できると思っていたが…
埼玉県で自営業を営む山内進さん(55歳)は1年前に父親を癌で亡くしました。母親も5年前に亡くなっており、遺産相続の権利を有する法定相続人は進さん、弟の浩二さん(52歳)、妹の幸子さん(49歳)の3人の子どもでした。
1年前に亡くなった父親は生前に遺言を残しており、そこには「全財産を長男の進さんに相続させる」と書かれていました。当時を振り返り、進さんはこのように話します。
「父親の遺産のうち預貯金などの金融資産はわずかで、大部分は自宅不動産でした。しかし遺言にそう書かれている以上は、当然その内容にしたがって自分が全財産を相続できるもの思っていたんです」(以下、注記がない限り「」内は進さんの言葉)

浩二さんと幸子さんはそれぞれ結婚して現在は県外に住んでいますが、子どもの頃から仲は悪くなく、大人になってからも両親が健在の間は毎年の正月に実家に集まって顔を合わせていました。だからこそ進さんは、「相続で揉めることはないだろう」と信じて疑わなかったのです。
ところが浩二さんと幸子さんからは、予期せぬ反発がありました。
2人とも「三人兄弟なのに長男だからといって進さんが一人で全財産を取得するのは納得がいかない」と言い始めたのです。
「2人ともいつになく強い態度で驚きました。しかし有効な遺言がある場合は原則としてその内容にしたがって相続が行われることを知っていたので、そう説明しました」
実際に遺言自体にも不備はなく、有効であることは明らかでした。