「横須賀」というと、みなさんはどんなイメージを思い浮かべるだろうか?

古くは。幕末の黒船来航の地。
昭和の時代には、大日本帝国海軍の拠点となり、戦後も、アメリカ軍や自衛隊が駐留する町は、軍港、軍都というイメージが強いかもしれない。

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が、海軍やネイビーといった、歴史や異国情緒を感じさせるエリアはごく一部。
工場や商業施設などの立ち並ぶ都会的なエリアもそう多いわけではなく、横須賀市は、海と山の自然に恵まれた、意外にものどかで素朴な町なのだ。

その横須賀市で、4年前、あるプロジェクトが始動した。
市営住宅の廃止後、全面取り壊しを予定していた一部エリアの建物を活用し、「アーティスト村」を創ろうという計画だ。
 昭和の時代に建てられ、老朽化していた建物をリノベーション、複数の芸術家が居住し、創作活動を行う拠点とする
アーティストと近隣住民たちとの様々な交流活動を通して、地域のコミュニティ再生を図ることも大きな目的だ。

実は、この「アーティスト村プロジェクト」に、私もひょんなことから参加させていただくことになった!
今回は、横須賀市の意欲的な取り組みと、私と「アーティスト村」との運命的な出会いについて書いてみたいと思う。

『時の輝き』『アナトゥール星伝』などで人気の、小説家で漫画家の折原みとさん。
『制服のころ、君に恋した。』では鎌倉、キマグレンの楽曲タイトルとコラボした『天国の郵便ポスト』では逗子、『幸福のパズル』では葉山を舞台にしている折原みとさんが、横須賀で「ダッシュ村」のような地域おこしにかかわっているという。横須賀は海と山があり、観光スポットも多い地域。そこで折原さんが体験した「アーティスト村への道」を短期集中連載にしてお届け。その第1回は「運命の出会い」についてお伝えする。
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横須賀との出会い

そもそものキッカケは、「横須賀を舞台にした小説を書きたい」と思ったことだった。

どうして横須賀?
その理由は、ごく単純だ。

神奈川県の「湘南」と呼ばれる地域に住んで25年。私はこれまで、鎌倉、逗子、葉山を舞台にした小説を書いてきた。
名付けて「湘南三部作」!

「湘南三部作」最後の『幸福のパズル』は葉山が舞台

と、なれば、次なる舞台は、三浦半島を南下して横須賀……!?
なんて安直な理由から、小説のネタを探すために横須賀に取材に行くことに!

私にとって、作品の舞台となる場所の取材は、必要不可欠な過程だ。

実際にその場所に身を置き、風景を見、空気を感じ、生活を体験することで、登場人物たちの気持ちになりきって書く。
そのため、自分の生活圏や縁のある場所を舞台にすることが多いのだ。

ちなみに、私の自宅は神奈川県逗子市。
鎌倉、葉山は、逗子市と隣接していて、普段からなじみのある大好きな町だ。

犬を飼いたいと海のある自然豊かな土地へ引っ越した折原さん 写真提供/折原みと

地理的に言えば、横須賀市も逗子市に隣接している。
が、こじんまりと落ちついた印象の鎌倉、葉山に比べて、横須賀は広く、しかも「都会」というイメージがあって、私には近寄りがたかった。

車で30分程度という距離とはいえ、これまでは年に数回、買い物か映画に行くのがせいぜいで、ほとんど「未知の領域」だったのだ。

そんな横須賀を取材するといっても、どこから手をつければいいのかサッパリわからない。

何度か足を運び、米軍基地のある市の中心部、ドブ板通り三笠公園ヴェルニー公園などを巡ってみたが、観光地を歩いているだけでは、町の本当の姿は見えてこない

そんな時、友人のWさんが横須賀出身だということを知り、彼女にアテンドをお願いすることにしたのだった。

今から3年前の、2019年2月。
私はWさんと共に、ウキウキ横須賀取材散歩に出かけた。

Wさんが案内してくれたのは、観光地でもネイビーの町でもなく、ごく普通の人たちが、普通に生活を営んでいる住宅地。

さすが、地元のことは、地元の人に聞くものだ!
そこには、今までイメージしていたのとはまるでちがう、素朴であたたかな横須賀の「素顔」があった

そしてその日、不思議な偶然に導かれるように、私は初めて、「アーティスト村」に足を踏み入れたのだった。