多くの当事者がデジタル化の必要性を強く認識し、技術も組織もできているのに、なぜ日本のデジタル化は思うように進まないのか。これを「渋滞」と捉えると解決法が見えてくるのではないか。そこで「渋滞学」を生み出した西成活裕東京大学先端科学技術研究センター教授と、DXスタートアップのプロである新規事業家の守屋実氏に対談していただいた。2回にわたって公開する、今回は後編だ(前編はこちら)。
外注先にDXの目的までお任せ
守屋 僕はよくDXは「CX」と「EX」とセットでなければ意味がないと伝えています。語呂がいいので、「X」に「C」「D」「E」とつけているんですが(笑)。「C」はカスタマー(顧客)、「E」はエンプロイー(従業員)で、つまりビジネスをDXしようと思ったら顧客も従業員も変わらないといけないということなのです。たとえば、遠隔医療サービスを展開しようと考えた時、医師も意識を変えなければいけませんが、患者もオンラインで診察を受けることを受け入れていく必要があります。DXとCXとEXはセットなんです。社会の流れはそちらに向かっているので、一気に進んでいけばよいですよね。

西成 DXが混沌としている理由には、目的が明確でないままにデジタル化を推進している点があると思います。目的が明確化できない背景として、DXを外注していることが挙げられるでしょう。「自社にIT人材がいないから外注しよう」という発想になるのですが、その際にDX の目的まで預けてしまっているんです。守屋さんのいうところの「EX」ができていない。これは、人間でいうと「私の人生、これから考えてもらえますか?」と言っているようなものです。自社で何がしたいのかを意志決定した上で、技術的なことを切り出して外注するという建て付けにしないといけません。
守屋 その通りですね。IT人材がいないのであれば、適切なリクルーティングをする必要があるでしょう。本来であれば、新規でデジタル事業を立ち上げるのであれば、チームの半分くらいエンジニアであってもおかしくないはずです。それなのに、外注で済ませようとしてしまう。外に出してしまうから、ちょっとした修正に1ヵ月もかかったりしてしまう。
西成 この課題は企業だけでなく、国単位でもいえることですよね。官庁も本来内製化しなければいけないことを外注しているので、どんどんお金が出ていって要件定義の会議で時間がつぶれている現状があります。私は内閣府の仕事もしているのですが、そこで働いている人と名刺交換すると多くが企業からの出向や兼業なんです。適宜外注しているのはよいのですが、組織内でビジョンを描けないほどにアウトソーシングしてしまっては、結局すべて民間誘導でバラバラになるのではないかと懸念しています。