ビッグ・テックも注目するメタバース——ネット上の「もう1つの世界」が担う役割

「夢のある未来」を開くカギとなるか?

2021年10月28日、衝撃的なニュースが世界中を駆け巡った。SNS大手・フェイスブックが社名を「メタ(Meta)」に変更することを発表したのだ。

新社名である「メタ」が、インターネット上に構築される仮想空間「メタバース」に由来することは明白である。フェイスブックの社名変更は、同社が事業の主軸をSNSからメタバースへシフトさせていくことの決意に他ならない。

では、具体的にメタバースとはどのようなものなのか。ビジネスとしてどのような可能性を秘めているのか。我々は、メタバースからどのような恩恵を受けるのだろうか。『メタバースとは何か ネット上の「もう一つの世界」』(光文社)を上梓した岡嶋裕史氏(中央大学 国際情報学部 教授)に話を聞いた。

※今回のインタビュー、本記事末尾で動画へご案内しています

「メタバース」とは何か?

——本書における「メタバース」の定義は、どのようなものでしょうか。

岡嶋裕史氏(以下、岡嶋):僕は「メタバース」を「現実の理とはちょっと違う理屈で動いているもう一つの世界」というとらえ方をしています。「新しい世界や自分にとって都合のいい世界を電子的に作っていこう」という動きや考え方が駆動しています。現実世界で自分にとって都合のいい世界を作ろうとすることは難しい。「メタバース」はその器になり得る可能性があります。

——健康かつ健全な人がインターネット上に構築されたメタバースに居続けることによって、弊害が生じる可能性はあるのでしょうか。

岡嶋:健康であるにもかかわらず、部屋の中に閉じこもってずっとメタバースにアクセスしている生き方は不健全だ、という考え方は当然あると思います。僕もそう思う。でも、したい生き方が現実では難しかったり、息苦しく感じている人も少なからず存在しています。

新型コロナウイルス感染症の流行で、緊急事態宣言が何度も出されました。緊急事態宣言って、「部屋の中に閉じこもっている方が社会的にいいことだ」という受け取り方もできますよね。ひょっとしたら将来的に、人が外に出たらいろいろな資源を消費するし、危険だし、いいことなんてないよね、という価値観が出てくるかもしれない。部屋の中でメタバースに没頭しているほうが健全だ、という考え方が一定の市民権を得る可能性もあり得ると考えます。

【写真】岡嶋 裕史 氏

岡嶋 裕史(おかじま・ゆうし) 氏

中央大学大学院総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。中央大学国際情報学部教授、学部長補佐。専門分野は情報ネットワーク、情報セキュリティ。

——本書で紹介されている「フィルターバブル」とは何でしょうか。

岡嶋:「フィルターバブル」は、インターネット上の情報などを選別していく「フィルタリング」という工程を何度も重ねていくことで、自分に不都合な情報が排除された快適な空間のことです。

学校のクラスを想像してみてください。友達との人間関係の形成は自分ではコントロールしきれません。気の合わない人とも、嫌々でも付き合わなければならないケースも出てくる。

一方、SNSのようなところでは、気の合わない人を簡単にブロックすることができますし、仲良くなりたい人と空間や時間の制約を超えて繋がることができます。学校のクラスや職場と比べると、自分の嗜好を反映させた人間関係を簡単に築くことができます。

SNSでは、マッチング機能など、快適な空間を作っていく仕掛けが多数ほどこされている。結果として、繭のような空間を、気が合う人とだけ共有することができます。

ユーザーに快適な空間を提供することは、ビジネス的には正しいと思います。快適な空間でユーザーが満足すれば、長い時間をそのサービスにつぎ込んでくれるようになるからです。

ユーザー側としても、他人との軋轢が生じないサービスはウエルカムですよね。快適なものを求める、というのは人間の本能です。だから、フィルターバブルの世界にユーザーが集まってくるのは、当然と言えば当然のことだと思います。

【写真】フィルターバブルとは気の合う仲間どうしが集まる快適な空間なら、ユーザーが集まるのも当然 photo by gettyimages

多様な生き方をバックアップする可能性

岡嶋:一方で、「嫌な人とでも付き合えるようにならないと成長しない」というのも真実でしょう。メタバースはまだまだ私たちの生活を包括しているわけではない。私たちは、まだリアルの世界で生きていかなければならない。そう考えると、フィルターバブルの中に閉じこもって、合う人とだけ付き合うというのは不健全だ、コミュニケーション能力をはじめとするいろいろな能力が育たない、と思うことは自然です。

でも、どうしてもリアルの世界が苦手、という人がフィルターバブルの中にこもる、フィルターバブルを一時避難場所にする、というのはありだと思います。

メタバースはフィルターバブルの延長線上にありますが、将来的にはメタバースの中だけで学んで、働いてお金を得る、ということもできるようになるかもしれない。どうしても対人関係が苦手、というのであれば、フィルターバブルをどんどん小さくしていくことで、苦手な人間関係を避けることができます。

最終的に、その集団に残っているのは一人だけ、となることもあるでしょう。でも、本人がそれで満足していれば、そういう生き方も将来的には認められるようになるかもしれません。

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