認知症大国・日本が向かうべき、「認知症フレンドリー社会」のリアル

【対談】南杏子×笠貫浩史
現代ビジネス編集部

「ブレインバンク」とは何か?

笠貫:認知症の病理研究のためのリソースである「ブレインバンク」作りが日本では思うように進んでいないということが『アルツ村』に描かれていますが、そういった面も一部あるかと思います。

ブレインバンクとは、生前にドナー登録を頂いた方を対象に、ご遺族の同意も得て脳を病理解剖し、得られた知見を「脳疾患研究のためのリソースとしての人類共通の知財」として、研究機関でしっかりと管理していくというシステムです。多くの脳を比較できるとより多くのことが調べられますが、ごく一部の医療機関を除いて日本では充分に整備されていない部分があります。

このシステムを大規模に実現できているのは、米国ですね。この差が生じる大きな要因として、文化的背景の差が挙げられると思います。西洋的な文化背景では心と体を分けて捉えているけれど、日本的な心性はそうではない。

ブレインバンクの重要性を解説する精神科医の笠貫浩史さん ©講談社
 

:ご本人が生前に提供の意思を示され、ご家族もそれを理解していても、いざ亡くなられるとご遺族が病理解剖に反対されるということがままありますね。「病気で苦しんで死んだ後、さらにメスを入れられるのは忍びない」という感覚でしょうか。

脳に限らず、医療の現場では「え、病理解剖するの?」という反応が多いですよね。遺族の反応を予見して、あまり積極的に剖検を進めない傾向はあるように思います。今回『アルツ村』を書きたいと思ったのは、本作をきっかけに「ブレインバンクへの提供」ということに世の意識が向けられるようになればいいなという思いもあったんです。医学に貢献する一助になれたら、という願いがありました。

笠貫:本作では小説的な描き方がなされていますが、然るべき手順を踏むのがブレインバンクの実際です。日本人は白人やヒスパニック、アフリカ系アメリカ人とは遺伝的背景も違いますし、国内のブレインバンクが適切に発展することが大切だと思います。

:「材料」がないということと研究の進み方とは分けて考える必要はありそうですが、日本人の診断をより正確に出すためには、やはりブレインバンクの整備は急務と感じますね。

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