認知症大国・日本が向かうべき、「認知症フレンドリー社会」のリアル

【対談】南杏子×笠貫浩史
現代ビジネス編集部

そして第三段階は、すでに具体的に解明している「脳の疾患」が症状を引き起こす総体を指します。アルツハイマー型認知症はここに属します。

「症状階層原則」のポイントは、「第一段階や第二段階に属する病にみられるあらゆる症状は、第三段階に属する病において認めうる」というものです。たとえば、認知症ではうつ状態やパニック発作のような症状がいずれもみられます。逆に認知症特有のもの忘れなどは、第一・第二段階の病にみられることはないんです。

認知症では「もの忘れ」がクローズアップされがちですが、実はあらゆる種類の心の動揺をご本人は経験なさるんですね。そこが丁寧に描かれていて素晴らしいなあと感じました。

:物語に登場するさまざまな認知症の患者さんの症状は、そこまで明確に意識した訳ではないんですが、精神科医の笠貫先生にそのように読み取っていただけたのは、とても嬉しいです。

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「病理解剖なくして診断なし」

:ある時、笠貫先生の講演を聞く機会があり、そこでおっしゃっていた「No autopsy, No answer」、「病理解剖なくして診断なし」という言葉に「これだ!」と衝撃を受けたんです。『アルツ村』のラスト、なぜこういう事態になったのかという根幹に関わるところですね。「このためだったら、いろいろなことが起きても不思議はない」と思わされて、そこから一気に書き上げました。

笠貫:あれは僕が留学先の研究所でご一緒したドクターの言葉です。脳のなかで何が起こっていたのか。この医学的な検索の究極は、病理解剖で得られた脳組織の病理学的解析になります。

作中でも語られていますが、臨床診断と病理診断は必ずしもイコールではないんですね。臨床的に「まず確実にアルツハイマー病であろう」と生前に診断されていて、亡くなられたのちにその脳を調べた結果、実は他の疾患だったという事例は国内外で多く報告されています。「アルツハイマー病の診断は脳を調べなければ確証を得られない」というのが医学的なファクトです。

ではご病気の途中で組織を調べ、生前に確定をできるかというと、脳は胃などの臓器と比べて生検を行うことがとても困難であるため、あまり現実的ではありません。このジレンマを埋めるべく、脳内の病理変化を高い精度で反映する放射線画像技術や体液バイオマーカーの開発といった研究が活発に行われています。

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