認知症大国・日本が向かうべき、「認知症フレンドリー社会」のリアル

【対談】南杏子×笠貫浩史

「世界一の認知症大国」と言われる日本。2025年には団塊の世代全員が後期高齢者となり、患者の激増と介護者の不足は喫緊の課題だ。

そんな中、現役医師作家の南杏子さんが認知症をテーマにした小説『アルツ村』を上梓。医師ならではの視点に満ちた本作について、認知症を専門とする精神科医、聖マリアンナ医大病院の笠貫浩史医師と語っていただいた。有吉佐和子のベストセラー『恍惚の人』から半世紀、認知症研究の最前線に迫る!

医師・作家の南杏子さん(左)と精神科医の笠貫浩史さん ©講談社
 

認知症の人とどう接するか?

:笠貫先生は精神科医、私は内科医で専門は異なるのですが、勤務先の病院でご一緒させていただきました。そこは高齢者向けの病院で認知症の患者さんが多数を占め、本当によく相談に乗ってもらいました。笠貫先生の診察を心待ちにしている患者さんも多かったんです。高齢の患者さんは会話が成立しにくい方も少なくないなかで、笠貫先生はうまく話をすくい出してくださって。

笠貫:精神科は人間の心・精神に相対する医学ですから、そこに触れなければならないのですが、そうたやすく触れられるものではないんですね。ご高齢の方は「秘匿性」といって、心の内を見せまいとする傾向があります。歳を重ね認知症になった方も、そうした傾向がよくみられます。

そうしたとき、無粋に心に「切り込む」よりも、「どうも」「お変わりないですか」といった、あえて表面的なやりとり、いわば「心の会釈」をすることが関係づくりに役に立つんです。

:認知症の患者さんは、強い不安や焦燥感を抱えている方が多いですね。すでに成人した子供のことを「あの子が帰ってくるから早く家に帰らないと」と、いてもたってもいられなくなったり、ちょっとした誤解から激怒したり、またそれが連鎖反応を引き起こしてしまったり。

笠貫:対話の相手やご自身の年齢が、実際とずいぶん違う設定になってしまう現象はよくみられますね。関わる私たちは、事実関係を問いただすことはしません。現在の家族関係が本人にとって心地よいものか、馴染みやすい時間となっているのか、という観点でお話を伺います。

その時に有効なのが「食事は美味しいか」「よく眠れているか」「心地よい時間を過ごせているか」といった、基本的な人の営みについての感想をおたずねする方法です。こちらの問い掛けによってご本人の心がいくらか解ければ、そこで現在の苦労や苦痛がふっと語られることになります。

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