ゼレンスキーへの危うい「熱狂」と、リベラル言論人の衰退を問う【田中康夫×浅田彰】

「憂国呆談」第1回【Part1】
田中康夫×浅田 彰 プロフィール

ところが日本は、今後5年間でインドに5兆円を投資するお土産を置いてきた。コロナ予備費12兆円の9割に当たる11・2兆円が使途不明だと「日本経済新聞」がスクープしても他紙が後追いもしない日本の「誤送船団」記者クラブにとっては、その半分にも満たぬ5兆円はノー・プロブレームってことかい? その5兆円を国内の貧困対策に回す方が遙かに経済効果を生むのにね。

真っ当な国民益とは何か?

田中 もちろん、専制主義的なロシア、中国、インドの体制を手放しで認めるものではない。でもね、同じく「強いリーダーシップ」のトルコとイスラエルにも懸念すべき点が多々あるとは言え、中国やインドに先駆け、トルコ大統領のレジェップ・タイイップ・エルドアン、イスラエル首相のナフタリ・ベネットはロシア、ウクライナの調停役として、したたかに動いている。

非資源国ニッポンも「従米一本足打法」でなく、真っ当な国民益に基づく良い意味での“バルカン外交”を考えるべきだ。少なくとも世界の潮流は米国中心の一極化でなく、人口やGDPの面でも中国やインドを含めた多極化に向かっている。こうした基本認識を読者の皆さんに共有して頂く上でも、浅田さんに改めて歴史を振り返って頂こう。

Photo by Shinya NishizakiPhoto by Shinya Nishizaki

浅田 第一次世界大戦後、戦勝国が敗戦国ドイツに過大な賠償金を要求し、結果、経済危機の中でドイツ社会が不安定化してファシズムに走った。その教訓を踏まえ、また冷戦が迫ってたこともあって、第二次世界大戦後、戦勝国アメリカは敗戦国の(西)ドイツや日本を援助して復興を助け、自分の陣営に組み込んだ。

ところが、ソヴィエト連邦のミハイル・ゴルバチョフがペレストロイカ(改革)を始め冷戦が終わったにもかかわらず、アメリカと西側諸国はゴルバチョフを十分支援せず、経済危機からクー・デタ未遂による失脚へと追い込んだ。

替わって登場したボリス・エリツィンがソ連を解体、急激な資本主義化によりオリガルヒ(新興財閥)が出現する一方で民衆が飢えるという大混乱に陥り、それを収拾できる豪腕の独裁者としてプーチンが登場した。かつてドイツをファシズムに走らせた過程と似たところがなくもない。

NATOの東方拡大の歴史

浅田 東欧の民主化とドイツ再統一──北大西洋条約機構(NATO)に属する西独にワルシャワ条約機構(WPO)に属する東独を併合する──に際し、アメリカはゴルバチョフに「NATOの東方拡大はしない」と口約束した。そもそもソ連が崩壊しWPOが解散した上は、NATOを解散してもよかったし、東西を包括する安全保障機構に組み替えてもよかった。実際、2014年にロシアがクリミアを併合するまで、ロシアはG8(先進国首脳会議)のメンバーだったし、プーチンがNATO加盟を打診したこともある。

 

しかし、NATOがどんどん東に拡大し、08年のブカレスト首脳会議でウクライナとジョージアの将来の加盟が決まった頃には、プーチンは「アメリカとNATOに騙された」という怨念を抱くようになる。この年、ジョージアで親米のミヘイル・サアカシュヴィリ大統領が南オセチアとアブハジアを攻めたのに乗じてジョージアに侵攻(ちなみに世界中で活躍してきた指揮者ヴァレリー・ゲルギエフが、いまプーチンと近いロシア人として事実上ロシア以外での活動ができない状態に追い込まれているけど、プーチンゆえにロシア文化すべてをキャンセルするのはどうかと思うし、そもそもオセト人ゲルギエフとしてはジョージアの脅威からオセチアを守ってくれる後ろ盾がプーチンだったわけ)。

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