ゼレンスキーへの危うい「熱狂」と、リベラル言論人の衰退を問う【田中康夫×浅田彰】

「憂国呆談」第1回【Part1】
田中康夫×浅田 彰 プロフィール

フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッドも『文藝春秋』5月号で「いざロシアの侵攻が始まると米英の軍事顧問団は大量の武器を置いてポーランドに逃げた。米国はウクライナ人を『人間の盾』にしてロシアと戦っている。『米英が自分たちを守ってくれる』と思っていたのに、そこまでではなかったことにウクライナ人は驚いている」と看破した。

ニッポンの資源問題

田中 もう1点留意すべきは、非資源国ニッポンの冷厳な現実だ。カロリーベースの食料自給率が、統計を1965年に開始して以降で最低数値の37・17%を2020年度に更新し、パンや麺類や菓子に欠かせぬ小麦粉も、豆腐の原料の大豆も、国内消費量の9割以上を輸入に依存している。鎖国時代の江戸と異なり、「ボーダーレス経済」の中に日本も組み込まれている。

とするなら、ウクライナとロシアという穀倉地帯でのきな臭さに直面する今こそ、「食の経済安全保障」構築が急務だ。SUSHIと並んで今や世界用語となったSOBAのソバの実の6割を輸入依存する日本への最大輸出国は、皮肉にもロシアなのだからね。

「露助(ろすけ)」を殲滅(せんめつ)せねば平和は訪れぬ、と口角泡を飛ばす面々は少し冷静になった方がいい。戦時でも平時でも衣服は着た切り雀で凌(しの)げても、クマやラクダと違って人間は食い溜めが出来ない。

資源輸入国と思われがちな人口14億人の中国は、エネルギー自給率8割、穀物自給率は9割を超える。そして、ロシアとウクライナは両国合わせて小麦の3割、大麦の3割、トウモロコシの2割、ヒマワリの75%を世界に供給している。「侵攻」前から既にニッポンは生殺与奪を握られているんだよ。

Photo by Shinya NishizakiPhoto by Shinya Nishizaki

メディアが報じない「不都合な真実」

田中 2月25日の国連安保理では親米国と思われていたUAEアラブ首長国連邦までロシア非難決議案に棄権した。3月2日の国連総会ではBRICKSのインド、中国、南アフリカに加えて、ロシアと親しいモンゴル、ヴェトナム、ラオスも棄権。何れも親日的と我々が捉えていた国だ。更には3月24日の2度目の決議にはLNG液化天然ガス輸入元として、ロシアに次いで日本が頼っているブルネイ・ダルサラームも棄権。都合ASEAN加盟3か国が棄権する展開となった。そうして4月7日、国連人権委員会のロシアの理事国資格停止は賛成93に対し、反対24・棄権58・欠席18の計100と拮抗した「不都合な真実」も日本メディアは報じていない。

 

5月の連休に中央アジアのカザフスタン、ウズベキスタン、モンゴルを林芳正外務大臣が「歴訪」して、一緒にロシアを非難しようと求めたが3か国とも同調しなかった。同じく「アジアで唯一のG7加盟国」としてインドネシア、ヴェトナム、タイ、そしてイタリア、イギリスを「歴訪」した岸田文雄首相も最初の訪問国のインドネシアで、11月にバリ島でG20を開催する議長国のジョコ・ウィドド大統領から、ウクライナへの武器供与には応じない代わりに戦争終結をさせるべくロシアとウクライナの両国をG20に招待すると通告されてメンツ丸つぶれ。

なのに「一連の歴訪は、強い姿勢で対ロ制裁に臨む日米欧への連帯を促し、中ロに接近させない為だ」と外務官僚からレクされた内容をそのまま記事化する聞き分けの良い島国ニッポンの記者クラブメディアは、最後に訪問したイギリスでは首相のボリス・ジョンソンと意見の一致を見ました、と大々的に報ずる始末だ。

実は首相が3月に訪れたインドでも、日印首脳共同声明の中にはロシアの「ロ」の字も入らず、ナレンドラ・モディ首相は共同会見で「ロシア」という単語すら口にしなかった。

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