ゼレンスキーへの危うい「熱狂」と、リベラル言論人の衰退を問う【田中康夫×浅田彰】

「憂国呆談」第1回【Part1】
33年にわたって続く田中・浅田の伝説連載が現代ビジネスに移ってきた! 二人の論客が深く、そして軽やかに日本を、世界を語り合う「憂国呆談」、東京・音羽の講談社で収録した移籍第1弾を3回に分けてお届けします! 口開けは「ウクライナ問題」。他では味わえぬ鋭い論考をお楽しみあれ!

「ウクライナ問題」の製造物責任はどこに

田中 1989年創刊の文藝春秋『CREA』を皮切りに足かけ33年に亘って『NAVI』、『GQ JAPAN』、『週刊ダイヤモンド』、『ソトコト』と「流浪の連載」を続けてきた「憂国呆談」(バックナンバーはこちら)。このたび、講談社のデジタルメディア『現代ビジネス』に移ってまいりました。

本来は記念すべき第1回だけど、世間はロシアとウクライナの時々刻々の戦況報道ばかりだ。

ロシアのウクライナ侵攻が論外なのは明々白々。それは大前提。その上で我々は、2000年に大統領に就任したウラジーミル・プーチンが、これほどの暴挙に至った背景を世界史的に振り返る必要性を強調し、いわば「ウクライナ問題」の製造物責任はプーチンだけでなくアメリカを始めとする「西側諸国」にもあるとの観点に立って、冷戦終結時まで遡って振り返ってきた(4月5日発売『ソトコト』5月号での千龝樂)。

しかしそんな背景には目もくれず、「ロシアとプーチンの暴挙を批判し、ウクライナとヴォロディミル・ゼレンスキー大統領の抗戦を支援せよ」、「ロシアが絶対悪。ウクライナは絶対善。ウクライナに武器供与するアメリカも絶対善」という近視眼的な思考に日本は陥っている。

しかもこれまで「リベラル言論人」を自任していた面々まで経済的新自由主義の「ネオリベ」へ転向し、善玉・悪玉コレステロール二元論の浅薄な議論に終始している。

日本の護送船団改め「誤送船団」記者クラブの各紙・各局も「ウクライナ避難民」は可哀相と情緒的特集を組み、“非白人社会”のシリアを始めとする中近東やアフリカの難民には極めて冷淡だった欧州各国も積極的に受け入れている。もちろん、翻弄される無辜(むこ)の民は可哀相だよ。であればこそ、先の大戦で軍人・軍属・民間人合わせて310万人とも言われる犠牲者を出した敗戦国の日本政府は一刻も早い停戦を実現すべく裏方として汗をかけ、と日本メディアは論陣を張るべきでしょ。

Photo by Shinya NishizakiPhoto by Shinya Nishizaki

踏み絵を強いる空気

田中 大切なのは、ウクライナ、ベラルーシ、ロシアの東スラブ地域での『戦争』を早期に終結させること。そして同じスラブ系であるが故にロシアを“近親憎悪”的に敵視しがちな他の近隣諸国との関係も調整すべき。なのに、海外メディア向けプレスセンターを用意周到にキーウ(キエフ)に設けたウクライナ政府側の視点で米英メディアが発信する戦況論を、「裏取り」もせずに流し続ける。そこには「弁証法」がない。

 

戦争こそ最大の公共事業とうそぶく軍産複合体に連なるジョー・バイデン政権も、大西洋の対岸の安全地帯から武器供与を続け、歩兵携帯式対戦車ミサイル「ジャベリン」を製造するアラバマ州のロッキード・マーチンの工場を訪れ、「君たちの奮闘がウクライナ国民の自衛を可能にする」と煽るバイデンは、停戦の仲介役にはなろうともしない。

そもそも人道的な武器供与などあり得ず、医療と食料こそが人道的支援なのに日本でも、「反戦VS交戦」「屈服VS抗戦」、お前はロシアとウクライナのどちらに立つのかと踏み絵を強いるファナティックな空気!

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