認知症のお年寄りがすぐ「キレる」理由

怒らせずに介護する凄ワザがあった!

「認知症の人は怒りっぽい。なぜなら、脳の機能が衰えているからだ」……などと書かれた書籍、ネット記事はたくさんあります。でも、それって本当でしょうか?

怒りの理由は、実は人としてもっと基本的なところにあるのかもしれません。介護現場で20年あまり経験を積み、アメリカや中国にも講演に招かれたことのあるベテラン講師が、その怒りの理由を教えます。

声をかけて教えたら、おばあちゃんが怒った!

ある介護施設で起きた話を紹介します。

認知症のおばあさんが、歯ブラシをヘアブラシだと勘違いして、髪をとかしていました。認知症のお年寄りは、目の前にあるのが何で、どのように使うものだったかを忘れてしまうことがあります。そんなふうに、物が正しく認識できなくなることを「失認」(しつにん)と言うのですが、その失認の症状が出た結果、私からみると「不可解な行動」に陥っているのでした。

やがて、施設の介護職がおばあさんの「行動」に気づきます。そして、ゆっくり近づいて、おばあさんの名前を呼びながら、優しくこう声かけしました。

「○○さん、それ、歯ブラシですよ。こっちを使ってくださいね」

そう言って、親切にヘアブラシを渡しました。本当にていねいに接しています。それなのに、おばあさんは、

「もう、かなわん!」

と怒って自室に閉じこもり、出てこなくなってしまいました。おかげで、そのあとのケアがずいぶん大変になってしまったそうです。

介護職は親切に教えてあげただけ。でも、おばあさんは私たちが「???」となるくらい激怒してしまいました。介護を経験した人なら、一度くらいこんな目に遭っているかもしれませんが、それにしてもなぜ、おばあさんは怒りだしてしまったのでしょうか?

かける言葉をほんの少し変えるだけで、怒らせずにすむ

介護者は、よく、認知症の人の「不可解な行動」に直面します。用もないのにうろうろ歩き回ったり、入浴を拒否したり、ときにはなぜか、水洗トイレの水で食器を洗ってしまう人もいます。さっきのおばあさんの激怒も、私たちからするとよくわからない「不可解な行動」でした。

不可解な行動に直面すると、私たちは「認知症だから仕方がない」と考えてしまいがちです。でも、本当にそれでいいのでしょうか。

人が行動を起こすとき、その背景には必ず「気持ち」があります。認知症があっても、人は人です。認知症の人が行動を起こすときにも、背景には何らかの「気持ち」があったはずなのです。その「気持ち」を想像してみると、おばあさんが怒り出した理由も見えてきます。

歯ブラシで髪を整えていたおばあさんは、失認のため、

「自分はヘアブラシで髪をとかしている」

と思っていました。

そこに職員がやってきて、急に「それ、歯ブラシですよ」と声をかけたわけです。おばあさんは、自分がおかしなことをしているとは思っていません。にもかかわらず職員は、「その行動は違う」というニュアンスの声かけをしてしまったのです。

つまり職員は、おばあさんを「否定」してしまったのです。声をかけた職員には善意しかありませんでしたが、おばあさんは自分が否定されたと感じたので、「おかしい」「くやしい」「つらい」といったネガティブな気持ちになり、だから怒りだしてしまったのです。

ではこの場合、どのような言葉をかければよかったのでしょう?

試しに、自分が歯ブラシで髪をとかしていると想像してみてください。

歯ブラシのヘッドは、ヘアブラシのそれよりだいぶ小さいはずです。そんなブラシで、うまく髪を整えられるでしょうか。きっと多くの人が「使いにくい……」「なんか変……」と感じるでしょう。認知症の人も、きっとそのように感じるはずです。だとすると、

「○○さん、それ、使いにくくありませんか? こちらのほうがいいですよ」

と言いながら、さりげなくヘアブラシを勧めれば、否定しないですむとわかるでしょう。

【写真】否定されたと感じさせない自分が否定されたと感じさせないことがポイント photo by gettyimages

職員の「それ、歯ブラシですよ。こっちを使ってくださいね」という声かけは、おばあさんが髪をとかし始める直前なら、声かけとして有効だったかもしれません。でも、いったん髪をとかし始めてしまったら、おばあさん本人からすれば否定になってしまうのです。そこにうまくいかない原因があったのでした。

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