『ダイヤモンド・プリンセス号』感染とコミュニケーションの間での葛藤

命のクルーズ(2)
豪華客船『ダイヤモンド・プリンセス号』。3711名を襲った、洋上のパンデミック。その修羅場に乗り込んだボランティア医師たちの闘いを描いた『命のクルーズ』から、緊迫の章ををピックアップして公開!

新型ウイルスの集団感染が起きた客船に乗り込んだ、医師の阿南英明氏。そこには新型ウイルスに翻弄される、外国人感染者たちの姿が…。

外国人感染者たちの行き先

自衛隊中央病院でコロナ診療チームの中心となったのは、感染症専門医の一等海佐、田村格である。

病院側が受け入れ打診の電話を受けたとき、すでに前日午後10時を回っていた。初日の受け入れ人数をめぐる押し問答はあったものの、もちろん田村自身、受け入れそのものに異論があったわけではない。病院としても、感染症対応は重要な役割と心得ている。ただし、経験したことのないリスクを伴う仕事であることは、疑いようがなかった。

大量受け入れの命が下ったとき、田村は内心、腹をくくった。

「これは、院内感染も覚悟しなければならない」

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ゆくゆく100人規模が入院するとなると、数人の受け入れとはわけが違う。まず大きな違いは、一般病床で感染者を診なければならない、ということだ。

ウイルスを含んだ空気が部屋の外に漏れないように、気圧を低くする陰圧の設備を備えていないふつうの病室で多くの感染者を診るのは、それだけリスクを伴うことだ。前述の通り、阿南の切羽詰まった求めにより、厚労省は、9日付で受け入れを一般病床に拡大する事務連絡を出している。その実行例の走りが自衛隊中央病院となった。

専門医にとっても、新型コロナウイルス感染症はわからないことだらけだったが、断片的な情報はあった。感染した場合に重症化するのは50歳以上らしい。どうやらエボラほど重篤ではなく、結核ほど感染力は高くない。

こうした情報をもとに、40代以下で編成した診療チームを前に、田村は繰り返した。

「訓練通りのことを、いつも通りに実行していれば、怖がることは何もない」

田村は連日、寝る間を惜しんで海外の情報を集め、スタッフと共有した。闇雲に危険に突入しなければならないのでは、いくら自衛官でも不安やストレスが倍加する。コロナ患者を受け入れている他の病院とも個人的なつてを頼りに連絡をとりあい、情報交換することを忘れなかった。

一気に感染者が増えたために、日ごろは担当外で不慣れなスタッフも動員されている。ふだんから感染対策の訓練を積んでいるスタッフとそうでないスタッフが一緒に働けるシフトを組み、お互いの防護が間違いないかチェックし合い、仕事をしながら確実に正しい所作を身につけられるよう工夫した。

自衛隊中央病院では、ほかの病院が敬遠しがちな外国人の感染者を積極的に受け入れた。というより、行き先がどうしても決まりにくい人が、この病院に集まったと言ったほうが実態に近いだろう。入院患者の国籍は、日本も含め17の国・地域に及び、中には、日本語も英語も解さないという患者もいた。

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