母&祖母の形見の着物を着始めてみれば、着物の持つ絶大な力を知ることになったイラストレーターでエッセイストの森優子さん。「文化や言葉の違いをぶっ飛ばして、キャーキャー大うけ状態を生み出す」着物を、「着たい」外国人に着せてあげるプロジェクトにも参加。10年続くこの「着付け隊」プロジェクトは、これまでに着せた人数約 400 名、関わった着付け隊メンバーは約 70 名にのぼる。

そんな中、サムライに憧れ、着物を着る夢を持つモンゴル人留学生がやってきた。民族衣装をまとい、つくば市から片道2時間の距離を電車を乗り継いできたその彼は、ケガが原因で8年前に全盲になったという。彼はなぜそんなにも着物が着たいのか。また、着物を着た自分をどうやって確認するのか。何のつながりもなかった彼が、どうやって「着付け隊」を知り、森さんのところまでたどり着いたのか。

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日本好きはあのアニメから 

すらりとした長身で、立体文字のウェルカムボードに思った以上に喜んでくれたダグワさん。ここで、ダグワさんのことをもう少し知っておきたい。 そもそもの生い立ち、そしてなぜサムライに憧れるようになったのかを聞いてみた。

本名はオガ・オチルー(ダグワは愛称)、1994年生まれの28歳(2022年現在)。生まれ育ったモンゴルのバヤンホンゴル県は首都ウランバートルから車で8時間ほど西にある地方都市で、山・砂漠・湖に囲まれた自然豊かな町らしい。視覚はもともとはあったが、8歳のときに左目を、18歳のときに右目を、いずれもケガが原因で失明したという。2020年に来日、国立大学法人 筑波技術大学にてコンピューターサイエンスを専攻中だ。 

モンゴルの民族衣装「デール」のモダン・バージョンを着るダグワさん。一年半前の来日時、日本人との交流のさいに着ようと持参したが、コロナによる外出自粛などで「実は着るのは今日が初めてです」。オンラインで受講はできても、留学生らにとっては孤独な日々に違いない。 写真提供:森優子

――どんな子どもでしたか? 
「活発で、特にバスケットボールが得意でした。祖父の手ほどきでチェスが上達し、学校の大会で勝ち抜いたこともあります」 

――もしかして馬にも乗れる? 
「はい。今でも乗れますよ。(ニャマフーさんも乗れるらしい) 」

――なぜサムライに憧れるように? 
「子供のころ、モンゴルの古代の戦士たちが描かれた本に夢中になって、弟としょっちゅうチャンバラごっこのような遊びをしていました。勇敢な剣士に憧れるようになったベースはそこにあると思います。 でもやはり影響が大きかったのは、テレビで放送されていた日本のアニメや映画ですね。子供の頃は『ドラゴンボールZ』に夢中でした。特に感銘を受けたのは、10歳のころに観た映画『ラスト・サムライ』。まず立ち振る舞いがエレガントであること。そして常に自らを律して、一度これだと決めた意思を貫くところ。勇敢さと優しさが伴ってこそ、人としての美しさがそなわる、それが真の英雄だと感じたのです。現代を生きる私も、そのようにありたいと目指す、お手本になりました。 

――なんだか耳が痛いですが、着物に興味を持ったのもそこから? 
はい。まず純粋にフォルムがかっこよかった。さらにサムライの動作や精神にも着物が影響しているのかなどの興味も湧いて、いつか着たいと夢見るようになりました。 日本には1年半前に来ましたが、あいにくコロナ禍で日本人と知り合う機会も少なく、本物の着物をどうすれば体験できるのか手がかりすらわかりませんでした。だから今日は嬉しくてドキドキです。