革命的な変化は「全国一律料金」

不妊治療の保険適用が、いよいよスタートする。日本の体外受精にとって大きな節目である今、各地で活躍する不妊治療専門医3名に話を聴いた。

3月21日、東京の高輪、仙台、盛岡の三都市にクリニックがある京野アートクリニックは、保険適用の開始に向けた説明のウェビナーを開催した。参加してみると、400人もの患者が参加して、京野廣一理事長による詳細な説明に聴き入っていた。

「保険診療では、患者さんの自己負担は、このようになります」

京野医師が、スライドで示した体外受精の自己負担額は、やはり安い。それは「採れた卵子やできた受精卵(胚)の数」「保険診療・先進医療(保険診療と併用可能な自費診療)に認められたオプション治療を使うか」等で変わるが、この日、いくつか示されたモデルケースそれぞれの総額は8~16万円台で、12万円程度が多かった

国の調査によると、一般的には、保険適用前の料金の全国平均は約50万円だったのでかなりの差がある。採卵した卵子がとても少ないと「助成金をもらえた方が安かった」という人も出るようだが、「多くの人は、助成金制度より保険の方が安くなる」と京野医師は言う。
年齢と回数の制限は、次の通りだ。

・39歳以下 胚移植6回まで
・40歳以上43歳未満 胚移植3回まで
(ただし12週以降の死産もしくは出産でリセット)

「革命的」と思わざるを得ないのは、この料金が全国一律だということだ。日本中、どこの産婦人科で体外受精を受けてもこの料金となる。
そのため、保険適用の方針が決まった時、医師の中にはそれに反対する声もあった。都心の一等地にクリニックを構え、最新の設備を誇る専門クリニックにはそれなりの経費がかかっている。

京野アートクリニックも、コストをかけて最先端の治療を導入してきたクリニックのひとつだ。JISART(日本生殖補助医療機関)という、クオリティを求める機関の認定も受けている。

外来で診察中の京野医師。不妊治療施設が少ない東北では貴重な仙台、盛岡のクリニックと東京を往復して診療している 撮影/河合蘭
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標準治療で使えなくなる薬も出てくるけれど

しかし、京野医師は、「国がこうと決めたからには、その枠の中でベストを尽くす」と言う。

保険診療は『標準治療』といって、国が、使う薬も、検査の回数も決めます。ですから私のクリニックでは保険診療になると使えない薬も出ますが、それでも、患者さんの経済的負担が小さくなるということは大きなメリットでしょう」

私が「思うような治療ができなくなることで、妊娠率が下がる可能性は?」と聞くと京野医師は「それは、まだわからない」と言う。
「同じ人で比較すれば差が出るとは思いますが、体外受精が受けやすくなることで、若い患者さんが増えるでしょう。そのため、全体で見れば、日本の体外受精の妊娠率は上がる可能性もありますよ」

結局、都心の専門クリニックも、保険診療を導入するところが多いようだ。京野医師の知る範囲では、「保険診療をしない」という結論となった他院の話は、まだほとんどないそうだ。

もちろん、年齢や回数の制限をオーバーしてしまい、保険診療の対象にならない人が体外受精を繰り返す場合は、これまで通りの体外受精が自費診療で受けられる。
「費用より妊娠率重視」と考える人もいるだろう。体外受精は採卵し、受精卵を培養して子宮に戻す「基本治療」に加えてオプション治療があり、今回、保険診療もしくは保険診療と併用できる治療「先進医療」として認められたものもあることは先に触れたとおりだ。しかし、着床前遺伝学的検査(PGT-A/SR)は、学会のガイドラインで高い評価がついたにもかかわらずどちらにも認められなかったので、これを使おうとする人も保険診療はあきらめなければならない。日本の保険は、保険診療と自由診療を一緒に使う「混合診療」を禁じているからだ。

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1回30万円(胚移植のみの場合は15万円)がもらえた自治体の助成金制度がなくなるので自由診療はとても負担が重いものになるが、それでも一部には自由診療を選び取る人もいるだろう。

だが、ここで、時代は幕が変わる。