年度末は卒業・就職・人事異動など新しい生活に切り替わる人が多い季節だ。新しいことへの期待に胸が膨らむ人もいれば、大きな変わり目はストレスにもなりうる。頑張りたい、頑張ろう、頑張らなきゃ!……。それでも、いいこともあれば悪いこともある。そんなとき小さな幸せや面白さを拾うことで、心が楽になったりしないだろうか。
『のだめカンタービレ』『逃げるは恥だが役に立つ』『東京タラレバ娘』……多くの人に愛される名作の数々を生み出し、ドラマ化された掲載作品も多い、マンガ雑誌『Kiss』が創刊30周年を迎えた。

その「Kiss」で25年続いている連載が、伊藤理佐さんの『おいピータン!!』(主人公の結婚に伴い『おいおいピータン!!』になった)だ。ドラマ『おいハンサム!!』の原案にもなったショートコメディ。「仕事のストレス」を題材にしたひとつの漫画から、辛いときに前に進むちょっとしたコツを探してみよう。

漫画/伊藤理佐 文/FRaUweb

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「思い当たる注意」は心からグッサリくる

「わかってないのにわかったフリをするのはやめろ(1)」
「あなたと仕事したい人なんて誰もいませんよ(2)」
「お前の名前、最近聞かねえなあ(3)」

これらは、とある編集者が実際言われ、腹から刺されて背中から刃先が飛び出すくらいグッサリ刺さった言葉のほんの一部である。(1)は新入社員のとき、取材先でわからないことを知ったかぶりしたためにとんちんかんな質問をして先輩から言われたひと言、(2)は入社数年で肩肘張って仕事をしていたとき同じ部署のカメラマンから言われたひと言、(3)は育児休職から復帰して新しい部署でドキドキしていたころに会社の別部署の上長から言われた言葉だ。

グッサリ刺さったのは、思い当たる節があるからだ。(1)はそのままだし、(2)のときは肩肘張って素直に何かをお願いしたりできずにいた頃だった。自分が「指示だし」をしなければならないと強い口調で依頼をするようなこともあった。(3)は育休から戻ったばかりでそれこそ結果は何も出していない時のことだった。つまり、すべてぐうの音も出ないその通りの言葉だった。

特にこの2番目はある意味で自分なりに頑張っていたつもりだったから、別の場所でおいおい泣いた。でも、その通りだなと思い、そこから「人にお願いするときに丁寧にしてしすぎることはない」ことも学んだ。今でもまだまだ至らず、誰かに不快な思いを抱かせることもあるかもしれないが、入社数年目で耳の痛いことを言っていただけたことは本当にありがたいことだと振り返っても思う。嫌な奴ならただ離れればいい。でも注意するということは、まだ直せる可能性があると思って言ってくれるのだろう。

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とはいえ、言われたその場でそんな風に冷静に見ることはなかなかできない。「チックショー!」と泣きたくなる。それが本音ではないだろうか。

同じようなイライラした二人が…

『おいピータン!!』2巻の「トロピカル」はある女性が会社の上司にぐうの音も出ないようなことを言われたときのエピソードだ。いろんなことに腹が立って会社の屋上で泣いているとき、自動販売機にある「スーッとさわやか」という言葉に惹かれてトロピカルドリンクなるものを買ってみた。

まっ、まっずー――い!!

思わず吹いてしまった女性。ああ、嫌な思いをスーッとさせたかったのに、それどころかシャツにしみまでついちゃったよ……。

(c)伊藤理佐/講談社『おいピータン!!』2巻より

そんな泣きっ面に蜂状態のとき、同じようにドスドスドスと屋上にやってきた男性がいた。

金網を握ってガシガシやっている。ああ、もしや同類か……そう思って見ていたら、彼は自販機の前にやってきてじっと見ている。ヤバイ、それはヤバイ。そんな彼女の目線に気づかず手にしたのは、トロピカルドリンク……。

やばいー―――!

そして案の定、彼も同じようにぶえっと噴いた……。

(c)伊藤理佐/講談社『おいピータン!!』2巻より

さて、同じ思いをしたふたりは「一体このトロピカル味は何から構成されているのか」の検証にかかる。

「ちょっとクランベリーですかね」
「ドクターペッパーも入ってますよね。単体だと好きなのに……」

でもまだ何か足りない。考え込むふたり。そこに「これだ!」とひらめいたのが彼女だった。

「それを思いつくなんてすごいです!」

さて、物語の終わりでは、マスカラが落ちるくらい泣きたいことを言われた上司のいる職場に主人公は戻る。でも、その表情はちょっと違って明るくなっている。単にこの味は何かなと考えて思いついた、それだけかもしれないけれど、「何かができた」体験が表情を明るくしたのだ。

小さな喜び、小さな自信、それが、意外と人に力を与えることを、「おいピータン!!」は教えてくれる。小さな幸せは、けっこういろんなところに転がっている。辛いことがあっても、ちょっとしたことで、人はまた前に進むことができるのだと。