国立公園の豊かな自然は、放っておくだけで守られる種類のものではありません。とくに屋久島は世界遺産でもあり、毎年多くの観光客が訪れる場所。人の手で意識的に守りつづける必要があるのです。いま、屋久島の自然を守るためにできること。それに向き合っている人たちに会う旅へ。今回は、2022年オープン予定の宿泊施設「Sumu Yakushima」、環境コースが設置されている「屋久島高校」、地杉をつなぐ循環の輪「木繋プロジェクト」をご紹介します。

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Sumu Yakushima

自然のなかにお邪魔します。
人と自然が手をつなぐ建築

土壌を傷めないための高床式と置き基礎。普通はベタ基礎といって、一面コンクリートで固めるが、そこには繊細な土壌菌などがいる。「Sumu Yakushima」は、建てることでそれらの菌類を活性化する仕組みになっている。建材は薬剤を注入していない屋久島地杉。高床式で風通しをよくすることで、シロアリなどの発生を防いでいる。

森の中にひっそりと佇む「Sumu Yakushima」。自然と人間の共生の可能性を探るべく生み出された、2022年オープン予定の、ある種実験的な宿泊施設だ。

自然エネルギーは当たり前。そもそもの建築技法からして、徹底して自然配慮型だ。建物はすべて高床式で、置き基礎。理由としては土壌を傷めず、水や風の流れを止めないため。山から海への流れを阻害しないようなつくりを目指した結果だ。

ラウンジ棟には薪ストーブ。燃料の薪は敷地のすぐ下の海岸から流木を拾ってくる。

基礎の下には焼いた杉の杭を2mほど打ちこんでいる。炭化させることで多孔質になった杭の表面は菌糸の住処になる。それらの菌が土中でネットワークをつくることで、周りの植物たちの活性化にもつながるのだ。要は人工の木の根。実際に、以前は元気がなかった木も、この建物ができたことですくすく育っているという。

現状はゲストが泊まれる建物が3棟と共有スペース。心地よいウッドデッキでは焚き火も楽しめる。

普通だったらここに建物を建てたいから、木を切る。でも「Sumu Yakushima」の場合は木の位置を見て、どこに建物を建てられるかを考える。自然のなかにお邪魔します、ということなのだ。

木の成長を見越して、あらかじめ軒をカット。

それを象徴しているのが共有スペースに設けられた大きな窓からの景色。実は木を切ってしまえばオーシャンビューにもできるのだ。あえてそれをせず、自然がどう変化していくのかを見守る。

共有スペースの大きな窓。森の先はオーシャンビュー。あえて木を切らずに自然の移り変わりを楽しむ、変化する風景画。

人が木々とかかわり合っていくことで世代交代が進み、次第に海を望めるようになるはずだという。人が自然に上手にリーチすることで風景を育てる。数十年後をイメージしながらつくっているのだ。

バスルームはオーシャンビューにしたかったので、木を切るのではなく配置で工夫。

現在は「人がそこに“住むこと”で自然がもっと“澄んでいく”」というコンセプトのもと、オープンに向けて調整中。自然と人との共生について、五感をフルに使って体感できる場所にしていく予定だ。

近隣の環境などを地図化。この場所だけをよくするのではなく、2つの川にはさまれた流域全体も整えていく計画。

人間は自然に対してもう少し謙虚になるべきかもしれない。ここは、現代人が忘れがちな、人間も自然の一部であるという意識を喚起してくれる場所。しかも空間として快適かつ美しい。

タンカン畑の除草に苦労し薬を撒こうとした農家さんの話を聞くと、自ら駆けつけて草刈り。それも屋久島の自然を考えているから。

こういう場所が各地に増えていけば、人が末永く自然と共生していく方法が明確になっていくはずだ。「Sumu Yakushima」には、人と自然の未来の姿があった。

敷地のすぐ下の海岸は、流木集めのために毎日通う場所。

Sumu Yakushima
写真右が設計、建築、デザインなどを担当した小野司さん。写真左は屋久島でのガイド経験を活かして、体験プログラムなどを考案している今村祐樹さん。左にある木は通称マザーツリー。この建物ができる前は枯れる寸前だったというのが信じられないくらい、元気に回復したのだという。