一卵性双生児でも同じがんになる確率は10%前後
一卵性双生児を対象に欧州で実施された研究結果をみると、双子の一方が大腸がん、乳がん、胃がんなどになったときに、もう1人が同じがんになる確率は10%前後で、調べたがんのなかで最大だった前立腺がんでも20%以下でした。病気の発生が遺伝子で決まる割合は、意外なほど少ないのです。

さらに驚くような事実をご紹介しましょう。遺伝によるがんの代表とされる遺伝性乳がん卵巣がん症候群という病気があります。この病気になりやすいタイプの遺伝子を持つ人は、70歳までに約60%の人に乳がんが、40%の人に卵巣がんが発生するといわれています。けれども、病気の遺伝子を受け継いでいても、減量や運動を通じて乳がんの危険を約3分の2まで下げることができます。
「ものの考えかた」が認知症のリスクを下げる?
乳がんだけではありません。アルツハイマー型認知症になりやすい遺伝子を持つ人を対象に実施された調査研究によると、不思議なことに「ものの考えかた」の違いによって、認知症の危険が約半分になると報告されています。
こんなことが起きるのは、心の状態を含めた生活習慣ならびに暮らす環境が「設計図」を実際に使うかどうかに関与しているからです。心の状態が病気の発生をおさえると聞いて驚かれたかもしれませんが、食生活や運動だけでなく、大きな精神的ストレスが遺伝子の働きかたを変えることが報告されています。そうであるなら、心の安定が健康によい効果をもたらしてもおかしくないでしょう。
「設計図」が変わるといってもいろいろで、いわゆる発がん物質が結びついて設計図の文字を書き換えてしまうこともあれば、設計図の文字はそのままで、指令の強さが変化することもあります。この分野を扱うゲノム生物学の発展により、身の引き締まるような事実も明らかになりました。変化した設計図がそのままの状態で子どもに引き継がれることがあるのです。