2022.03.31

異分野の研究者たちが集う“反分野的”研究フォーラム「Scienc-ome」とは?

サイエンスはもっと自由で面白い
リケラボ プロフィール

バーチャルラボの立ち上げに挑む理由とは?

——XRイノベーションハブをさらに拡張する取り組みを始めているそうですね。

バーチャルな大学、もしくは研究所の立ち上げを企画しています。わかりやすくいえば、N高(=N高等学校。学校法人角川ドワンゴ学園が設立した、単位制・通信制課程の高等学校。本校は沖縄県うるま市伊計島にあるが、インターネットを通じて授業や課題の提出を行うオンライン主体の課程を取る「ネットの高校」)の大学版あるいは研究所バージョンでしょうか。

リアルな校舎など物理的な施設は存在しないけれども、研究を取りまとめるサーバーが仮想空間上に実在している。研究者たちはオンライン会議ツールやVRツールを使ってディスカッションするから、世界中のどこからでも参加できます。自分の関心を元にチームを立ち上げて「この指とまれ」式でメンバーを募る。ときにはリアルな病院や企業研究所から、共同研究を持ちかけられるケースも想定していて、その際にはリアルとバーチャルの組み合わせ、まさにXRで研究を進めます。

——狙いは、従来の研究システムの枠を外すことですね。

大学の研究室に所属しなければ、研究できない。そんな現状を変えたいのです。アメリカにはハワード・ヒューズ医学研究所があります。これはハワード・ヒューズ氏によって設立された非営利の医学研究機関です。

核となるのはHHMI Investigator Programで、研究者として採用されれば所属研究機関を移ることなく、最低5年間、資金提供を受けられます。これまでにトップクラスの研究者に多額の資金提供を行い、約30名のノーベル賞受賞者が在籍していました。日本においても、大学や企業などと異なる研究やイノベーションの形があっていいのでないかと考えています。

——ボーダーレスなコミュニティの母体となるUJA(一般社団法人海外日本人研究者ネットワーク/ NPO UJAW.Inc)も運営に関わっていますね。

UJAは、日本学術振興会のワシントンオフィスにご支援いただいて海外の日本人研究者の相互支援の場として2013年に立ち上げられた組織です。現時点でメンバーは400名ぐらいいて、私は2015年から参加しました。その後、アメリカでのNPO法人化や研究者のキャリア支援に関わってきました。とにかくボーダーレスなコミュニティをつくり、世界中どこにいても研究できる仕組みを整えたかったのです。その延長線上としてバーチャルラボや、イノベーション推進部の立ち上げに取り組んでいるところです。

——早野さんも含めて、UJAの運営に関わっている方々の多くが、所属大学に自分の研究室を持っています。それでもバーチャルなラボを立ち上げようとする動機は何でしょうか。

みんな海外留学から帰国して自分の研究室を持ちます。そこで感じるのが「なんとなく窮屈な感じ」なんです。海外では、30代から研究者は独立した研究を実施し、学生やポスドクの時のボスとはむしろ一緒に仕事をしないことを強く勧められます。研究者にとって何より大切なのは自由です。だから大学の研究室以外の選択肢をつくりたいと考えたのです。

UJAホームページのスクリーンショット

https://www.uja-info.org/

研究の自由度こそが、研究者の幸福の指標

——UJAのメンバーはもとより、Scienc-omeの参加者も留学経験者が多いようですね。

日本の研究室しか知らない院生と話していると「○○先生に教わりたくて」とか「○○先生の下で、こんな研究させてもらって」と、二言目には所属する研究室の先生の名前が出てきます。ところが海外に出ると、まったく違う。誰の研究室にいるかなど関係ありません。常に問われるのは「研究者、個人として何を達成したいか?」です。世界標準と比べた日本の研究環境の異質さは、一度留学をすると不思議に思えてきます。

——研究環境が違えば、研究に対する評価の基準も変わってくるのではないでしょうか。

大学内での評価基準は、あくまでも論文です。論文を何報出したかが問われる。論文が重要であるのは当然ですが、それ以外に評価基準がないのもどうかと思います。もとより研究がすべて実用的である必要などありません。けれども、仮に論文にはなっていなくとも、社会課題に貢献する研究が、もっと評価されてもよいのではないでしょうか。例えばスタンフォード大学などでは、論文を書くだけではなく社会課題に挑戦する研究者がたくさんいます。そして社会課題の解決には、専門分野での知見を活かしながらも、分野外のプロたちとも協力することが必要不可欠です。

写真提供:早野元詞氏

——研究成果を社会に役立てるのは重要な視点ですね。

日本でも若い研究者ほど、社会課題に挑戦したいと思う人が増えているようです。だからなのかもしれませんが、若手ほど悩んでいる。特に女性で研究者をめざす人は悩みが多いようです。研究成果を社会に役立てるためには、研究者の環境整備は非常に重要で、男女が均等な機会と評価で研究環境において参画し研究が進められるよう、多様性についてしっかり理解と議論する必要があります。

——自由に研究に取り組める環境が整備されれば、日本の力にもなりそうです。

研究者、つまり研究の好きな人が秘めている可能性は無限大だと思っています。どこかの研究室に所属して、みんなと同じようにできなくて悩んでいる研究者がいれば、ぜひ「それでもいいんだよ」と背中を押してあげたい。私自身も老化に関する研究成果を社会実装していきたいと考えています。ちょうどAltos Labsと呼ばれる老化の若返りに特化したスタートアップが3000億円以上を調達して設立されたというニュースになっていましたが、今後も老化研究のニーズは大きくなっていくと思います。

——アメリカで学んでいたDavid A. Sinclair博士もベンチャーを起業していますね。

研究領域のボーダーをなくして、同じテーマに関心を持つ研究者が集まって、社会のために行動を起こす。そんな姿をアメリカでは何度も目の当たりにしてきました。ベンチャーについてはチャレンジする人の99%は失敗するといわれています。だからこそ、特に若い人がチャレンジそのものを楽しめる環境をつくりたいのです。私も20代の頃は、いろいろ不安を抱えていました。それでも、David教授のもとに飛び込み、道が開けました。そして30代になって感じたのは、それまでに培った経験やネットワークの大切さです。常に自分なりの「問い」を意識し、視野をできる限り広く持って、その「問い」を解決できる仕事を見つける。その成果が、人類の未来につながると信じています。

早野元詞(はやの・もとし)
熊本県生まれ。2005年熊本大学理学部卒業、2011年に東京大学大学院新領域創成科学研究科にて博士号(生命科学)を取得。2010年より東京都医学総合研究所所員、日本学術振興会海外特別研究員、Human Frontier Science Program Fellow、ハーバード大学医学部客員研究員などを経て、2017年から慶應義塾大学医学部眼科学教室特任講師、株式会社坪田ラボでChief Science Officerを務め、2021年より慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室(三村將教授)および慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科(満倉靖恵教授)の特任講師。医学部では眼科学教室の伴紀充講師と共同ラボ(網膜老化生物学チーム)を運用している。一般社団法人ASG-Keio代表理事、特定非営利活動法人ケイロン・イニシアチブ理事、一般社団法人海外日本人研究者ネットワーク理事、UJA.Inc(NPO in USA)board memberを務め、若手研究者の支援にも力を入れている。
早野研究室HP: https://www.hayano-aging-lab.com/
Twitter: @HayanoMotoshi

(本記事は「リケラボ」掲載分を編集し転載したものです。オリジナル記事はこちら

関連記事