2022.03.31

異分野の研究者たちが集う“反分野的”研究フォーラム「Scienc-ome」とは?

サイエンスはもっと自由で面白い

新進気鋭の研究者たちが、オンライン上で交流する。コロナ禍を逆に好機と捉えて、立ち上げられたフォーラム『Scienc-ome』、そのキャッチフレーズは「反分野的」です。これが意味するのは、既存の学問領域にはとらわれないという強い意思表示。背景にあるのが、フォーラムを立ち上げた早野元詞氏らの強い危機意識です。

慶應義塾大学医学部・理工学部で特任講師を務め、自らも「反分野的」を実践する早野氏は、「Science without borders」をコンセプトとする国際プロジェクト『ヒューマンフロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)』に参加し、ボーダーレスな研究の重要性を痛感しました。国境はもとより学問領域も超えて共同研究に取り組む、だからこそHFSPはノーベル賞受賞者を輩出してきた。これに倣い日本の学問の未来のために立ち上げられた『Scienc-ome』、その成果と今後の構想について伺いました。

早野元詞さん

「面白い、だから知りたい」が研究者のモチベーション

——早野先生はHFSPに参加していますね。

最近ライフスパンの本を出版したことでも有名な米・Harvard Medical SchoolのDavid A. Sinclair博士のラボに2013年から2017年まで在籍していました。HFSPには2014年度から3年間Long-term fellowshipとしてお世話になりました。

最初はネットでHFSPの存在を知り、挑戦的な研究者を高く評価する視点や、長期的な社会インパクトを求める姿勢に強く共感しました。ただ日本にいるときには応募の締め切りに間に合わず、応募したのはアメリカへの留学後です。

HFSPに参加するメリットはいくつもありますが、特に大きいのが国際的な助成金として認知度が高いため、参加者が海外の研究者と交流しやすい点です。しかもHFSPは、挑戦的、学際的、国際的な研究を強力に後押ししてくれます。酵母を使った細胞周期の研究から、マウスを使った老化の研究へ飛び込むことは勇気のいる決断でしたが、それに見合う成果を得られました。

——キーワードは挑戦、学際、国際などでしょうか。

そのとおりでまさに「Science without borders」、このHFSPのコンセプトこそが、研究の本来あるべき姿だと思います。生命科学に限らずロボット工学やAIなど分野を問わず、そもそも研究を始める動機は純粋にそれが「面白かった」からでしょう。最初から「自分が研究したいのはロボット工学だ」などと分野を決めて研究を始める人は少数派じゃないでしょうか。自分の興味や関心を突き詰めていった結果、特定の学問領域に行き着くはずです。ところが研究の現場は今、残念なまでに分断されています。

——分断とはどういう意味でしょう。

研究者が勝手にグループ分けしてしまい、他のグループとの交流が阻害されがちになっているのです。関心領域の同じ仲間とは、お互いよくわかり合えるし、話もしやすい。これは当然です。

けれども仲間内に閉じこもっていては、イノベーションは期待できません。Perfecting Cross-Pollinationの多様性と破壊的イノベーションと同じですね。自分とはまったく関係のない研究者と出会って話をする中で、想像もしなかった視点が芽生えてアイデアがスパークする。これこそがHFSPの目的です。だからこそHFSP参加者からは、多くのノーベル賞受賞者が出ている。実際に知り合いの研究者はフンコロガシを使った動物学と数理学と分子生物学をかけ合わせた研究などが行われています。何かワクワクしませんか。

※写真右から早野氏(2014〜2017年、HFSPフェロー)、2000年から2009年までHFSPで事務局長を務めたトルステン・ウィーセル博士(1981年ノーベル生理学・医学賞受賞)、足立剛也氏(2018〜2021年、HFSPフェロー) 写真提供:早野元詞氏

バーチャル空間を活用したボーダーレスなイベントを実現

——イノベーションには分野横断的な活動が必要なのですね。

学会を否定するつもりなど毛頭ありません。同じ分野で切磋琢磨し合う仲間がいるのは、研究者としてのモチベーションを高める上で心強い支えになります。とはいえ、それだけで面白いかと問われると、そうとは言い切れない。サイエンスって本来、もっと自由で面白いものじゃないでしょうか。面白いのが何より大切で、分野なんて後で考えればいい。特に若い研究者の間に、このように考える人が増えています。そこで新しい組織を立ち上げようと考えたのです。

——それが「Scienc-ome」ですか。

学会が専門性を重視するコミュニティだとすれば、Scienc-omeは専門性、立場、年齢などを無視することで成立するコミュニティです。実際に高校生なども参加しています。だからあえて「反分野的」をキャッチフレーズに入れています。ボーダーなどなくサイエンスを楽しみながら、ネットワークを広げたい。そんな研究者たちが自然に集まってできたコミュニティであり、学会とは異なるコンセプトを大事にしています。

※毎週水曜日、日本時間の21時〜22時に開催されているScienc-ome。下記サイトにアクセスして登録すれば、誰でも参加できる。
https://www.scienc-ome.com/

——どんな研究者が集まっているのでしょう?

生命科学系が多いのは確かですが、弁理士、社会学者、ビッグデータ関連、経済数理学、製薬会社などまさにボーダレスなメンバーが揃っています。中には歯科医ながら解剖学を学んだ後に政策学校で学び、ロックバンドやって、がん研究者と公共政策の仕事に携わるなど、従来の研究室にこもりがちな研究者イメージからすれば、とんでもない人ですよね。

——2021年からはScienc-ome XRイノベーションハブ(SXR)と題したハッカソン&サイエンスフォーラムを開催していますが、これにはどんな人が参加しているのでしょうか。

XRイノベーションハブは、クロスリアリティ(XR)技術を活用し、現実と仮想現実をつないで実施するイベントです。最近ではメタバースとしてFacebookからMetaに社名が変更されたことでも最近話題の技術ですよね。SXRでは国、分野、世代などの垣根を超え、とにかく面白い研究に興味のある人が集まってきます。目的は、唯一無二のシーズの発掘、オープンイノベーション、次世代リーダーの育成です。2021年5月の第2回目開催では、私を含む4人がディレクターを務め、2日間にわたるイベントを行いました。

1日目はハッカソンの説明とチーム結成そして講演を行い、2日目にはハッカソンチームで議論し、その結果をまとめてプレゼンテーションを行います。そのテーマは「ビヨンドフェムテック」「鬼舞辻無惨を生み出すor倒す」「アレルギー撲滅」「教育DX」「ドラえもんの秘密道具」などを設定しました。ここに研究者はもとより、学生から高校生、企業の人などが世界中から参加しています。特に高校生からの反響が大きく、社会学の学者と知り合って共同で論文を書き始めた高校生もいます。重視しているのが単なる「参加」ではなく具体的な「アクション」なので、まさに狙い通りの成果が生まれています。

画像提供:早野元詞氏
画像提供:早野元詞氏

※第2回のScienc-ome XR Innovation Hub(SXR)は2021年5月15日・16日の2日間に渡って開催された。ハッカソン参加者は95名で、6〜8名で構成されるチームが12できた。アンケート結果からは、参加者の満足度の高さがうかがえる。

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