2022.03.13
# ロシア

プーチンはなぜウクライナの「非ナチ化」を強硬に主張するのか? その「歴史的な理由」

日本ではあまり注目されていないが、プーチン大統領は、ウクライナへの侵攻に際して「非ナチ化」という言葉を頻繁に使っている。じつはこの言葉が用いられる背景を知ると、プーチン大統領がどのような歴史的な論理でこの侵攻を正当化しているのかが見えてくる。静岡県立大学の准教授で、著書に『ユーラシア主義とは何か』(成文社)最新の訳書に『ファシズムとロシア』(マルレーヌ・ラリュエル、東京堂出版)がある浜由樹子氏が解説する。

2022年2月24日、ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始した。その際、ウラジーミル・プーチン大統領は、「特別軍事作戦」の目的をウクライナの「非軍事化」と「非ナチ化」だと説明し、停戦交渉にあたってもそれらを条件として提示している。

この「非軍事化」ないし「中立化」については、ウクライナのNATO加盟問題と絡めて多くのメディアで解説されてきたが、「非ナチ化」についてはほとんど注目されていないようだ。単なる誹謗中傷、あるいは、ユダヤ系であることを明らかにしているゼレンスキー大統領を「ネオナチ」呼ばわりする世迷言と受け止められている。

しかし、この「非ナチ化」にはいくつもの重要なメッセージが込められている。ここでは、3つの文脈から読み解いていこう。

〔PHOTO〕Gettyimages
 

「歴史をめぐる戦争」

前提として、ロシアにとって第二次世界大戦、とりわけ独ソ戦が持つ意味についておさえる必要がある。当時のソ連は、第二次世界大戦で最大の人的犠牲を払った国であり、(諸説あるが)その数、およそ2600万から2700万人とされる。これは当時の人口からすれば10人に一人(以上)。つまり、すべての人が誰かを失い、どの家族にも悲劇があったということを意味する。

国民の英雄的な戦いの末にナチ・ドイツを打ち破り、連合国の勝利に貢献し、ファシズムから世界を解放したこと――「反ファシズム」「反ナチズム」国家としてのアイデンティティは、今でもロシア社会を束ねることのできる数少ない要素である。

しかし、この歴史解釈に対して異議を唱える動きが、とりわけ2000年代初頭あたりからウクライナ、バルト諸国、ポーランド等で活発化する。各国は自分たちをナチズムとスターリニズムという二つの全体主義体制の犠牲者と位置づけ、ナチ・ドイツとソ連を同列視する歴史観が政治家によって次々と示された。

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