昨年秋、第34回東京国際映画祭のNippon Cinema Now部門正式招待作品としてワールドプレミア上映され、外国人記者の間でも「オレオレ詐欺を題材に日本社会の病理を鋭く描いた映画」と絶賛された『親密な他人』が劇場公開中だ。

行方不明になった息子への愛にとらわれ、オレオレ詐欺の加害者の雄二(神尾楓珠)を自宅に匿い、実の息子のように面倒をみる主人公の恵(黒沢あすか)。本作には、女性に「良き妻・良き母であれ」と無言の圧力を掛ける日本社会の姿が描かれていると、脚本・監督を努めた中村真夕さんは語る。海外生活の長い中村さんが日本の社会に感じる“違和感”とは。

あらすじ
突然行方不明になってしまった最愛の息子・心平(上村侑)の帰りを待ち続けるシングルマザーの恵は、心平を知っているという謎の青年・雄二と出会い、身寄りのない雄二に心平の部屋で暮らすことを持ちかける。しだいに親子のような、恋人のような関係になっていく二人。しかし、雄二には隠された目的が、そして恵にも誰にも言えない秘密があった――。
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日本の「母と息子」の密着度に驚いた

――なぜ映画のテーマに「オレオレ詐欺」を選んだのでしょうか。

中村:私は中学校までは日本で育ちましたが、高校をロンドン、大学と大学院をニューヨークで過ごし、映画製作を経て30過ぎに日本に帰って来ました。その時に驚いたことは、「母と娘」と「母と息子」の密着度があまりに違うことでした。前者に比べて後者がはるかに高い

日本は男尊女卑社会で、「とにかく男の子が大事」という感覚があると思います。「長男の嫁」という言葉があるくらい、家父長制を維持するために小さい頃から家族の中で男性は大切に扱われている。そこで、日本における母親の息子に対する執着を示す現象が何かないかと探した時に辿り着いたのが「オレオレ詐欺」でした。

『親密な他人』より

――外国人記者クラブでは劇中に登場する「オレオレ詐欺」は日本社会特有のものであるという指摘を受けたとのことでした。

中村:海外にも全くないということはありません。ですが、日本ほどあるわけではないそうです。いい年をした息子が母親に困ったと電話をしてくる。それでもなけなしのお金をはたく老いた母親がいるということが衝撃的でした。欧米では18歳過ぎたら子どもは大人なので「家から出ていけ」という感覚です。ところが、日本は違う

ちなみに、日本では「ワタシワタシ詐欺」はないですよね。娘と母は元々連絡を取り合っているので、「ワタシワタシ詐欺」はないという説もあるそうですが、とにかく親子の依存関係が強いことには間違いがありません。