消えてなくなりたかった

とっさに私は「いのちの電話」を検索してダイヤルしていた。強い意図があったわけじゃない。ただ、私は恥ずかしくて恥ずかしくて消えてなくなりたかった。この壁の中に溶け込もうとする自らのイメージが浮かぶ。

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誰かにこちら側につなぎとめてほしい。でも、こんな不名誉を同僚には絶対に共有できない。友人にも無理。家族にはもっと無理。彼らには大学卒業時のきらきらな私の像を固定しておいてほしい。それで、知人よりも、私のことを全く知らない赤の他人ということで、「いのちの電話」にすがった。そこに何の思考もなかった。もう必死に、反射的に、飛びつくように。

つながらない……。

「0120」から始まる無料ダイヤルは通話が混んでいた。この際、電話代がかさんだってかまわない。「03」から始まる有料ダイヤルの番号を叩くように押す。

「プープープー」という話し中のトーンを聴きながら、ふと、笑いが込み上げてくる。せりあがるような羞恥心の波に押し流されそうで、川面にわずかにのぞく小岩にしがみつくその瞬間ですら、私は電話代を気にしているのだ。自身のアンバランスなケチさ加減が妙におかしい。

そして、私は息をつく。そのときはじめて、しがみつくのはやめようかと思った。