「かつての自分は体重が減りさえすれば、栄養なんて関係ないと思っていました。不健康になると言われても、別にそれでもいいし、という感覚で。まさにダイエットに憑りつかれていましたね」というのは、プラスサイズモデルの吉野なおさんだ。

過度な食事制限から摂食障害になり、体も心もボロボロになった経験を持つなおさん。今は、自分らしく生きることをベースに偏ったダイエットやルッキズムの問題などをSNSなどで積極的に発信している。

「ダイエットが盛んになるこの時期、改めてダイエットの意味を問いかけたい」というなおさんが、前編では、痩せる価値観しか受け入れられなくなったダイエット沼の闇を伝えてくれた。後編では、ダイエットで起こるリバウンドのしくみなどを、ダイエットに苦しんでいる人に届いてほしいという願いを込めて寄稿してくれた。

以下より、吉野なおさんの寄稿

-AD-

制限するほど食べたくなる心理は「弱さ」ではない

そもそもリバウンドするなんて、「意志が弱いから」「リバウンドしなきゃいいだけの話」と思うかもしれない。

しかし、急に食べるものを減らしたり、◯◯だけは食べてOKといったシリアスな食生活を送り続けていると、身体はストレスを感じる上に、飢餓状態だと感じてエネルギーを脂肪として蓄えやすい体にシフトしていくので、リバウンドは、生きていく上で当たり前の身体反応といえるだろう。

有名な実験なのでご存じの方も多いかもしれないが、1987年にダニエル・ウェグナーという心理学者が提唱した『皮肉過程理論』というものがある。実験参加者にシロクマの映像を見せた後、3つのグループにわけ、「シロクマのことを覚えておくように」と言ったグループと、「シロクマのことを考えても考えなくてもいい」と言ったグループと、「シロクマのことを絶対に考えないでください」と言ったグループに分けた。その結果、「絶対に考えないでください」と言われた人たちが、いちばんシロクマの映像について詳しく覚えていたのだ。

人間は「何かを考えないように努力すればするほど、かえってそのことが頭から離れなくなる」という特徴を持っている。また、禁止されるほどやってみたくなるカリギュラ効果という心理現象もある。

カロリー制限をするときは、カロリーのことを考えなくてはいけないし、糖質制限なら糖質のことを考えなくてはいけない。あれは食べちゃダメ、これは◯gまで……と考えるうちに四六時中食べ物のことを考えてしまう。行きすぎれば、生活はそのことだけ、それ以外のことが考えられなくなってしまう。

いつもは禁止している食べ物を「ほんのちょっとだけ食べよう」と我慢するつもりが物足りなく感じて落ち着かなくなったり、思ったより食べすぎてしまうのは、意志が弱いからではない、体が危機に反応しているサインだ。ということは、過度な制限で食べ物のことを気にし過ぎていたり、栄養不足に陥っているから、という原因も見えてくる。

また、最近はファミレスだけでなく、様々なお店でカロリーや栄養価表示がされている。「食べたい」「食べたくない」という気持ちよりも、カロリー表示や糖質の数値でメニューを選んだり、料理に入っている栄養素の数値や量を優先する人が増えている。栄養バランスを知る意味ではいい面もあるが、過度なダイエット状態になると、他人の作った手料理や栄養価や数値表示のない食べ物が怖くなり、柔軟に食べること、楽しみながら食べることが難しくなってしまうケースもある。

カロリー計算をしないと安心して食べられない、数値がわからないと不安という人は、偏った食べ方になっている可能性もある。photo/iStock

そうした情報優先の食べ方をするうちに、「おいしい!」「温かくてほっとする」「冷たくてスッキリした」「これ食べたかったんだ!」というような自分の感情や選択に自信が持てない人も増えているように感じる。私自身も経験したが、こういった感覚が欠落すると、空腹感や満腹感がわからなくなり、気付いたら食べることが「単なる作業」になっていってしまうこともある。こういった感覚を味わったことがある摂食障害経験者は少なくない。