2022.03.07

なぜいま「韓国のマンガ」が日本で人気なのか…日韓マンガ業界の第一人者が語るウェブトゥーンへの誤解と最新事情

マンガアプリ「ピッコマ」でNo.1ヒットとなり2020年には月額1億円以上売り上げた『俺だけレベルアップな件』などのウェブトゥーンを制作するREDICEの日本支社長で、『盗掘王』『全知的な読者の視点から』などを制作するエル・セブン創業者のイ・ヒョンソク氏は、2004年から10年間「ヤングガンガン」(スクウェア・エニックス)で編集者として活動したのち2014年にcomicoに転じてウェブトゥーンを手がけ、2017年にDMM Tellerに転じたのち、19年にエル・セブンを創業している。

日本と韓国のマンガ業界両方で経験のある実務家イ・ヒョンソク氏がウェブトゥーンに関わって味わった失敗とは? また、日本人が近年のウェブトゥーンについて誤解していることとは?

【前編】「マンガ王国」日本に迫る「韓国産マンガ表現」の熱風…人気ウェブトゥーン『俺レベ』制作会社日本支社長が語る日韓マンガ最新事情

ラブコメを任されたときはショックだった

――インタビューの前半では、イさんが来日して日本のマンガ業界に韓国人作家を起用することに大きく貢献した話をうかがいました。2010年頃からウェブトゥーン隆盛によって韓国人マンガ家が日本をめざす風潮が薄れはじめ、イさん自身も2014年にウェブトゥーンの編集者/プロデューサーとしてcomicoに転じます。

 「ヤングガンガン」編集部からcomicoに移った当初の僕は、ウェブトゥーンを見下していました。人物のデッサンは狂っているし、色の使い方もひどい。comicoにはマンガ編集の経験者がほとんどいなかったからこうなっているんだろうと思っていた。だから「こんなの簡単にできる」と知り合いに頼んで作品をいくつか作ってみた。ところが、とことん人気が出なかった。見開きマンガで培ったノウハウがまったく通用しない。ショックでした。

僕は見開きマンガの原作者や編集者として、「戦争とは何か」を真剣に考える作品やハードSF要素のあるアクションマンガなど、シリアスで重厚なものを得意としてきたわけですが、comicoであるとき、メイドが登場するラブコメのウェブトゥーンを任されました。今だから言えますが、これまでの仕事とのあまりの差に屈辱的な気持ちを抱きました。ところがこの作品がその曜日に更新される作品の中で断トツ1位の人気になった。

これによって「ウェブトゥーンはマンガを作っている感覚でやってはダメなんだ」「読者が違う」と気付くことができた。そこから確信を得て、まだ10代の作家をスカウトに行って作った作品がまた有料販売部門でまれにみる人気作品になりました。

 

――comico編集部が2015年11月に『デジタル漫画のテクニック』という本をMDNから出版していますが、これにもイさんが携わっている。

 少しだけ関わりました。ただ、あれはウェブトゥーンを解説した内容としてはもう古くなっています。

僕が運が良かったのは「ヤングガンガン」でもcomicoでも機会をもらって実験ができたことです。スクエニ時代には「韓国人原作者×韓国人作画家」「韓国人原作者×日本人作画家」「日本人原作者×韓国人作画家」すべての組み合わせでマンガが作れたし、実写映画『神と共に』の原作ウェブトゥーン『神と一緒に』を、日本人作家の三輪ヨシユキさんが日本型の見開きマンガとしてリメイクする、ということもやりました。

comicoでも、スクエニから金田一蓮十郎さんの『ラララ』と『ニコイチ』という見開きマンガをお借りして、縦に貼り直してカラーにして配信したところ、人気が出ました。ただ、別のある会社のものを持ってきたら縦にしても売れなかった。縦化しやすい構成、色が塗りやすいものがあるんですね。たとえば縦化するときにはスクリーントーンが邪魔になる。だからトーンワークが美麗な神絵師のマンガを縦カラーにするのは難しい。そういう経験を通じて発見が無数にあった。

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